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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

昔から、海は好きな方ではなかった。
もともと、泳ぐのが得意というわけではないし、ただ眺めるとなると気が重くなる。

潮の満ち干きに揺れて、寄せては返す波。
茫洋と、どこまでも広がる海原。
底知れぬ深さを湛えた、滄海の虚ろな色。

これらを目にするたび。
はっきりと意識はしていなかったものの、必ず、ある種の不安を抱いていたようにも思う。

自分は何処から来たのか。
これから、自分は何処へ向かうのか。


そして、何よりも。

此処に居る自分は、何の為に存在するのか――と。


関連SS:『傷』〔前編〕 〔後編〕

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寅靖の過去を描いたSSです。
長い・暗い・惨いと三拍子揃っておりますので、苦手な方はご注意下さい。
なお、一部アンオフィシャルな内容が含まれる可能性があります。
唐突に3rdキャラを投入してしまったため、お披露目を兼ねたSSを。
寅靖やテルと関わりが薄い割にブログが共用なのは、単純に背後が無精なだけです……。


卯月 玲(うづき・りょう)〔b29337〕

〔承前〕

――ほら、あの子は親がいないから。

両親の愛情が足りなかったのだと、したり顔で語る大人たち。
何度、そういった台詞が陰で囁かれるのを耳にしたことだろう。

笑わない、泣きもしない。
そんな子供など、異端でしかない。
大人たちにとっても、その息子や娘たちにとっても。
異質であるから、遠ざけられる。

ただ一人の例外は、小学校の時の同級生だった。
俺とはまるで正反対に、いつも満面の笑みを浮かべているような奴で。
あいつだけが、俺を恐れなかった。
別の中学に進学してから交友は途絶えたが、今頃何をしているのだろう――

先日、鈴蘭亭に新しい顔が増えた。
伊達鷹一、高校2年生。一応は、俺の中学時代の後輩に当たる。

と言っても、当時の俺に伊達と直接顔を合わせた記憶はない。
あちらの話によると、一方的に俺の噂を聞き及んでいたらしい。

「オレ、先輩ってもっと怖い人だと思ってたっすよ」

俺の顔をまじまじと見る伊達の一言に、若干苦いものをおぼえる。
人の印象とは、一度そう認識してしまうとなかなか拭えないものだ。
伊達の言うそれは、俺が中学時代、桜と出会う以前に残してきた負の遺産に他ならない。


――“手負いの虎”


これが、当時の俺の異名だった。

〔承前〕

それから三日間、俺の熱は一向に下がらなかった。
普段がなまじ風邪と縁遠いばかりに、数年に一度、こういった機会が訪れてしまうとなかなか治らない。
全身の関節が軋みをあげるように痛み、眠りに落ちれば悪夢が襲う。

床に伏せる俺の傍らで、桜が回復の兆しを見せていることが、唯一の救いだった。

〔承前〕

雨の中をずぶ濡れで出歩いたのが祟ったか、俺は翌日から滅多にひかない風邪をひきこんだ。
高熱で関節が悲鳴を上げ始めていたが、それを気にしている余裕などない。

桜は、相変わらずぐったりとした様子で、静かにその身を横たえていた。

しん、と響くような雨音が、座敷の中に居てもはっきりと聴こえてくる。
ここ数日降り続いている雨は、まだ止む兆しを見せてはいない。

「やんなっちゃうなあ、雨ばっかしで」

いつもの如く、宣昭と家に転がり込んでいた紅乃が、畳の上で手足をばたつかせる。
この天気では出かけるにも億劫だが、それでも部屋に閉じ込められるのは我慢がならないようだ。

「だからといって、人の家で暴れるなよ」
「流石にやんないけどさ。でも、身体なまるー」

苦笑しつつ声をかけると、紅乃は寝転がった姿勢のまま、傍らの桜に視線を向けた。

「桜もそう思うよねー?」

紅乃と正面から顔を見合わせる形で、桜が小さく鳴いて答える。
尻尾が所在なさげに揺れているところを見ると、どうやら同じ気持ちであるらしい。


……そういえば。桜と出会ったのも、こんな雨の日だった。

先の記事に関連した、寅靖のSS。
やや、内容は暗めです。
寅靖、転入日の登校前を書いたSSです。
転入のタイミングとしては、土蜘蛛のリアルタイムシナリオが終了した時点を想定しています。

なお、寅靖の制服は以前の学校のもので、ごく一般的な学ランです。
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