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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2017/10/18 (Wed)

昔から、海は好きな方ではなかった。
もともと、泳ぐのが得意というわけではないし、ただ眺めるとなると気が重くなる。

潮の満ち干きに揺れて、寄せては返す波。
茫洋と、どこまでも広がる海原。
底知れぬ深さを湛えた、滄海の虚ろな色。

これらを目にするたび。
はっきりと意識はしていなかったものの、必ず、ある種の不安を抱いていたようにも思う。

自分は何処から来たのか。
これから、自分は何処へ向かうのか。


そして、何よりも。

此処に居る自分は、何の為に存在するのか――と。


関連SS:『傷』〔前編〕 〔後編〕

それは、中学二年の冬休み。
年末も近くなった、ある日のことだった。

出先で売られた喧嘩に本気になり、危うく相手の腕をへし折りかけて。
荒んだ心のまま帰宅した俺は、あろうことか、その憤懣を自らの祖父へと向けた。

渕埼流古武術道場師範・渕埼清宗(せいしゅう)。
幼い頃より、俺に格闘のいろはを叩き込んできたのは、この祖父だ。
親代わりであり、師でもあり。
育ててもらった恩こそあれ、牙を剥いて報いる理由など、どこにも無い。

それでも、俺は問わずにいられなかったのだ。
何故、俺を鍛えた。何故、俺に戦う術を授けた。
道場の家に生まれたからか。
下らぬ喧嘩に、拳を揮わせるためか。

つい先刻。俺は、自分を襲った相手の腕を折るところだった。
まるで、細枝を折るかの如く、容易いことに思えた。
躊躇いも、良心の呵責も、あの瞬間はどこかへ吹き飛んでいた。

「……どうして……っ」

腕を折られかけた男の表情が、脳裏をよぎる。
そこにあったのは、紛れも無く、俺に対する恐怖の色だった。

――殺意が無かったと、言い切れるか?

まるで蓋を開くように、内側から溢れ出そうとした衝動。
そのまま身を任せていれば、相手の腕を折るどころか、息の根を止めることすら躊躇わなかっただろう。
自分自身に対する不信が渦を巻き、やがて、はけ口を求めて罵声と化す。


「どうして、壊す術しか、教えてくれなかったッ!!」


笑うことが出来ないゆえに、人の輪に入っていくことが出来ず。
泣くことが出来ないゆえに、人の痛みを分かち合うことが出来ない。
出来るのは、ただ、目の前にあるものを壊すだけ。

――それは、果たして人と呼べるのだろうか?

「……答えろッ!」
声を荒げる俺を、祖父の冷厳な瞳が真っ直ぐに見据える。
その必要は認めぬ、と、低い声が後に続いた。

「――道場に来い。何を血迷ったかは知らんが、
 その思い上がりと腐った根性、叩き直してくれる」


* * *


道場の空気は、普段より一段と冴え渡っていた。
真正面に対峙する祖父と俺との間に言葉は無く、ただ、張り詰めた空気のみが存在する。
既に、闘いは始まっているのだ。

互いに、仕掛ける隙を窺う数瞬。
その沈黙を先に破ったのは、俺だった。

床を蹴り、低い姿勢から鳩尾を目掛けて突きを放つ。
仮にも相手は師範だ。本気でかからねばこちらがやられる。
一切、妥協はしない。
たとえ、それが祖父を“壊す”ことに繋がったとしても――

しかし、俺の拳は祖父に届くことはなかった。
咄嗟に軸足をずらされ、突きは胸元を掠めて宙を穿つ。
伸びた腕を祖父の右肘が捉え、すくい上げる勢いで掌底が俺の顎を直撃した。

頭を強く揺さぶられ、平衡感覚を失う。
そのまま、右腕一本で、俺は道場の床へと叩き付けられた。
起き上がる暇もなく、祖父が俺の右腕を取る。

「儂を壊せる気でいたか」
先の掌底で傷ついた口中から、血の味が滲む。
肩越しに振り返った先、祖父が眉間に深い皺を寄せて俺を睨んでいた。

「……この、たわけ者めが」

苦いものを湛えた声に、ごきり、という嫌な音が重なる。
躊躇いも容赦も無く、祖父は俺の右肩の関節を抜いたのだった。
まるで、人形の腕を捥ぐかのように。

「――――~~ッ!!」

声にならない悲鳴が、思わず喉から漏れる。
激痛にのたうち回る視界の隅で、黙って俺を見下ろす祖父の姿が一瞬映った。

時間にして、それはわずか十分ほどだっただろうか。
苦痛は、訪れた時と同様、唐突に幕を閉じた。
祖父が再び俺の右腕を取り、肩関節を元通りはめ直したのだ。

噛み付くような俺の視線にも、一切の反応を示すことなく。
祖父はそのまま、踵を返して道場を去る。
後には、俺だけが一人、残された。

冷えた道場の床に、強く拳を打ち付ける。
焦燥と、不安と、やり場のない怒りと。
せめぎあう胸の中で、一つの問いが、次第に大きくなっていく。

――俺は、何のために此処に居る? 何のために、生まれてきた……?

過去、両親の命と引き換えに、大事故を生き延び。
現在、誰からも必要とされずに、ただ日々を過ごすだけの自分。
そこに、果たして生きる意味は存在するのだろうか。


いつしか、俺は逃げるように外へ飛び出していた。
行くあてなど、当然あるはずもない。
それでも、この家には居られないと思った。

痛む身体と、揺らぐ心とを抱え、上着の一枚も持たずに。
身を切る寒さの中、俺の迷走は始まったばかりだった。


〔続く〕

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