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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2017/10/18 (Wed)
寅靖の過去を描いたSSです。
長い・暗い・惨いと三拍子揃っておりますので、苦手な方はご注意下さい。
なお、一部アンオフィシャルな内容が含まれる可能性があります。

『慟哭の雨』


――雨の夜だった。

フロントガラス越しの視界は、流れ落ちる雫と、それを払うワイパーによって交互に遮られ、靄がかかったように頼りない。
道路に対向車はなく、車内には運転席の“彼”と後部座席の妻、そして隣のチャイルドシートに1歳の息子の姿があるのみ。
ようやく眠りについたらしい我が子を起こさぬよう、彼も妻もいつしか口を噤んでいた。
雨音だけが、静寂の闇を通り過ぎてゆく。

濡れたアスファルトが街灯に照らされ、そこに銀色の道を真っ直ぐ浮かび上がらせる。
久方ぶりの、家族三人の外出。
帰り道のこの雨さえ無ければ、とうに家に辿りついていたはずだというのに。

車はここに一台きり。夜に取り残された、孤独な疾走。
そんな、不吉なイメージが脳裏をよぎったのは、疲れゆえだろうか。

ようやく対向車線にヘッドライトの光点を認めた時、彼は心中で密かに肩の力を抜いた。
そうだ。車を走らせているのは、何も自分だけではない――

しかし、彼の安堵は直後、驚愕へと変貌を遂げた。
対向車線をすれ違うかと思われた車は、まるで狙いを定めたかのように、こちらに真っ直ぐ突っ込んできたのだ。

咄嗟にハンドルを切り、声を限りに妻と息子の名を叫ぶ。
悲鳴は、続く轟音と衝撃に掻き消された。


* * * *


“男”が現場に辿り着いた時、まず視界に入ったのは、無残にひしゃげたセダンの車体だった。
同時に、それを踏み潰そうと襲い掛かる、猪に似た獣の姿を認めて、軽く舌打ちする。
こういう時ほど、“奴ら”を感知する能力を持たないこの身を呪うことはない。

「……随分とご機嫌じゃないか、アミーゴ」

舌にごく軽い口調を乗せつつも、男の瞳は静かな怒りに満ちている。
銀の雨によって生み出される“奴ら”。
それに対抗しうる力を持つ者は、自身を含めても、ほんの一握りに過ぎない。

男に気付いたのか、猪に似た“獣”が、獰猛な赤い視線を向ける。
おどけた動作で挑発を仕掛けると、獣はいとも簡単に、男の誘いに乗ってきた。

「いいぞ、アミーゴ。こっちの水は甘い」

獣の注意が、完全にセダンから離れたのを確認した後。
黒い残像を纏った蹴りが、闇に溶けるように大きく弧を描いた。


* * * *


獣が不気味な断末魔とともにかき消えた後、男は半ば潰れたセダンへと足を向けた。
車体のフレームはほぼ原型を留めず、ガラスはフロントからリアまで、その殆どが砕け散っている。
エンジンに残る熱が、降りしきる雨粒を微かに蒸発させ、薄く白い靄を漂わせていた。

どう見ても、この中に生きている人間が居るとは思えない。
男は人より楽天的な思考を持ち合わせていたが、無条件の奇跡を信じるほど愚かではなかった。
だから、男が車のドアをこじ開けたのは、乗員の生存を信じたからではない。
“間に合わなかった”自らの無力。その結果を、深く心に刻むために。

予想通り。歪んだ車内は、鮮血に彩られて鋼鉄の棺と化していた。
運転席に一人、後部座席に一人――おそらくは、まだ若い男女。
ハンドルにかかったままの血塗れた手。その薬指に、指輪がはっきりと見て取れた。

――新婚さん、かな。

つい先日、そう呼ばれる立場になった自分自身の境遇を重ね、男が奥歯を強く噛み締めた時。
後部座席に倒れ付す女性の下、埋もれるように、チャイルドシートの台座と、小さな足が見えた。

慌てて反対側のドアをこじ開け、目を凝らしてそっと腕を伸ばす。
指先に温かく柔らかいものが触れた瞬間、それが微かに動いた。

衝突の直前、この女性は咄嗟に我が子を庇ったのだろう。
抱くように腕を広げ、全身を投げ打ってその上に覆い被さり――

そんな母の一念ゆえか、はたまた自らの強運ゆえか。
チャイルドシートの赤ん坊は、生きていた。それも、ほぼ無傷に近い姿で。

「やあ……お目覚めかい」

赤ん坊の瞼がうっすら開き、小さな黒い瞳が男の姿を映す。
その少し下、左の頬に、平行な赤い筋が二本、はっきりと刻まれていた。
おそらくは砕けたガラス片が掠ったのだろうが、見ようによっては爪痕のようにも思える。

――もう少し、眠っていた方が良いよ。

血濡れた母親の骸に抱かれ、泣き声の一つすら上げずに。
真っ直ぐに自分を眺める赤ん坊に向け、男は殊更に明るい声を絞り出す。

考えずにはいられなかった。
ありふれた“事故”として片付けられるだろう、この惨劇の顛末を。
両親を一度に失い、自らも傷ついたこの赤ん坊が、将来、その“事実”を如何にして受け止めるのかを。
想像せずには、いられなかったのだ。

「ああ、僕は怪しい者じゃない。
 どこにでもいる、通りすがりのルチャドールさ……」


その後、駆けつけてきた人の気配に男が立ち去るまで。
赤ん坊は、とうとう泣かなかった。

夜の静寂を切り裂く雨音。
それは男の耳に、親を奪われた子の泣き声のように響く。


大粒の涙と化して地面を叩く、声無き慟哭。

雨はまだ、止みそうにない――

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