『業と責』
無音の静寂に包まれた仏間で、寅靖は一人、仏壇の前に座っていた。
視線の先には、仲睦まじく並んだ両親の位牌がある。
――なんか、今まで出し惜しみしてたみたい。
先に赴いた“ゴーストタウン”の戦いで、友人から冗談混じりに指摘された言葉。
ある疑問を伴いながら、それは脳裏を駆け巡って離れようとしない。
ごく最近、“能力者”として覚醒した瞬間の感覚。
“新たな力を得た”というより、それは“閉じていた蓋が開いた”ものと感じられた。
そう。自分は、遠い記憶の彼方で“この力”を知っている。
“能力者狩り”という言葉を知ったのは、つい先日のことだ。
ゴーストたちは、能力者、あるいはその素質を持つ者を滅しようとする。
事実は“世界結界”の力で歪められ、犠牲者の死はありふれた事故として扱われるのが常。
両親の命を奪い、自分ひとりが生き残った交通事故も、“能力者狩り”の仮の姿にすぎない。
標的が両親のうちいずれかであったのか、自分であったのか。
今となって、それを知る術はない。
しかし。
もし、自分だとするなら。
どうして、今まで目覚めることができなかったのだろう。
己の秘めていた能力者の素質が、結果的に両親の命を奪ったのであれば。
そんな自分は、誰よりも早く、この戦いへと身を投じるべきでなかったか。
“力”を裡に封じ込め、何も知らない振りをして安穏と十数年を過ごした。
これを『出し惜しみ』と言わずして、他に何と言うだろう。
無意識に、寅靖の手は自らの左頬へと伸びた。
あの事故によって刻まれた2本の古傷をなぞり、彼は心の中で両親に問う。
――教えて下さい。
貴方たちを死へと追いやったのは、私なのですか。
無論、答えが返ってくることはなかった。