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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/03/19 (Tue)

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《※背後註》
当エピソードは『寅靖の祖先が土蜘蛛である』という仮想設定のもと
とあるPCさんとの忘却期以前における因縁について描いています。
若干のアンオフィシャルな内容を含む可能性があるため、
そういった仮想設定が苦手な方はご注意下さいませ。

なお、ご登場頂いたPCさん達に関する記述については
PLご本人様より事前に許可を頂いております。

→参考SS(連作) 【淵より至りて】
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目的の店は、海の見える高台にあった。
晴れた空の下、穏やかに凪いだ海を一瞥した後、寅靖は飴色の揺り椅子が置かれた店の入口へと向かう。
揺り椅子の上には“-Vigilia di Natale-”と書かれた黒板と、向日葵の花を抱えたレインコート姿の栗鼠のぬいぐるみ。
これこそが、季節によって場所を変えるこの店の目印だった。

「いらっしゃいませ」

店の扉を開けた寅靖を出迎えたのは、馴染みの双子ではなく、まだ10歳ばかりの小さな少年。
蒲公英を思わせる長い金の髪に、淡い紫色の瞳――初めて見る顔だ。新しく加わった店員だろうか。
寅靖の顔を見上げ、何かお探しですか、と言いかけた少年の表情が、にわかに凍りつく。

「……――き、」
「?」

訝る寅靖。
直後、店内に高い悲鳴が響き渡った。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

呆気に取られる寅靖の眼前で、身を翻した少年が店の奥へと駆け込む。
その様子は、まるで餓えた猛獣を眼の前にした小動物のようで。

「どうした稚都世(ちとせ)、何が――」

悲鳴を聞きつけ、長身の青年が奥から姿を現す。
怯えきった様子で自分の後ろに隠れる少年を宥めた後、青年は店の入口に立つ寅靖を見た。

「――え、渕埼、先、ぱい……?」

何があったんですか一体、と問う青年――いちるの声に、俺の方が訊きたいよ、と返す寅靖。
少年はいちるの背中に隠れたまま、こちらの方を見ようともしない。

自分が子供に対して威圧感を与えやすい容姿であるとは自覚していたが、初対面でここまであからさまに怯えられたという経験も稀なはずで。
そんなに不機嫌そうに見えたのだろうかと、寅靖は困り顔で頭を掻く。

少年が怯えたその理由が、己の生まれる遥か昔の出来事にあるとは――この時の寅靖には、到底知る由もなかった。

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連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
ご覧になる際はその旨をご了承下さいませ。

なお、作中にご登場頂いた他PL様のPC、NPCについては
PL様ご本人より事前に許可を頂いております。
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〔承前〕

【Epilogue ―呪縛の終焉】

ドアチャイムを押すと、扉越しの微かな足音に、鍵の開く音が続いた。

「――どちらさま?」

チェーンのかかった扉の隙間から、小柄な女性の姿が覗く。
初対面の相手を警戒させぬよう、俺は丁寧に一礼して名乗った。

「突然にお伺いして、申し訳ございません。渕埼寅靖と申します」

この日に俺が訪ねたのは、渡瀬が最期に暮らしたアパートの一室。
そして、眼前の女性こそ――渡瀬と生活をともにしていた、彼の内縁の妻だった。

「渡瀬さんには、生前お世話になったもので……よろしければ、お参りをさせていただけませんか?」

俺の言葉に、女性は扉の隙間からこちらを見上げ、まじまじと顔を眺めた。
彼女は痩せてはいるが、今にも倒れそうなほど病的な様子ではない。
渡瀬の仮初の命を繋ぐため、この女性が自らの血を提供していたことは間違いないだろうが、それよりは葬儀などの疲れが出ているように見える。

しばしの沈黙の後、女性は表情を少しだけ和らげ、こう言った。

「散らかっておりますけど、どうかお上がりください。渡瀬も、きっと喜ぶと思いますから」

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連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
ご覧になる際はその旨をご了承下さいませ。

なお、作中にご登場頂いた他PL様のPC、NPCについては
PL様ご本人より事前に許可を頂いております。
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〔承前〕

【Home ―帰還】

「二人とも有難う。朝早くに時間を取らせてすまなかったな」

物陰に待機していた円やいちると合流し、偽装のため軽く現場を整えた後。
空き地を離れ、公衆電話から匿名の110番を終え、今日介に連絡を入れてから――俺は、二人に向けてようやく礼を言うことが出来た。

遺体が残っている以上、俺達がいつまでも現場近くをうろついているわけにはいかなかったし、あの閑散とした空き地で、渡瀬がいつまでも発見されずに放置されるのも忍びない。
よって、事が済んだ後はかなり慌しく動かねばならず、落ち着いて言葉を交わす暇もなかったのだ。

「その……心配も、かけてしまったと思う」

先の戦いを振り返り、ばつの悪さを抱えながら言葉を続ける。
あらゆる状況を考慮した上で、己に出来る最善を尽くしたことに偽りはないが……それでも、見守る側にとっては充分すぎるほど無茶な戦いぶりと映っただろうから。

沈黙を破ったのは、眉間に皺を寄せたいちるの溜め息だった。
 「……先輩だけは、命の危険が絡んでも“俺と同じ事”には走らないと思ってましたけど」

意味深な言葉とともに、携帯電話でメールを打ち始めたいちるを眺めながら、それは、自分も同様の無茶をやりましたと宣言したも同然じゃなかろうか、と思うものの、この状況でそう反論できるはずもない。

その間に手早くメールを打ち終えると、いちるは「ま、いいか」と誰に言うでもなく呟いた。
この場に停めていた自転車を引っ張り出しながら、今度は俺と円の方を向いて言う。

「今日もバイトあるんで、俺そろそろ帰ります。典杏への報告は、すみませんがお二人で行ってください」
「……あ、ああ。忙しいところすまなかった」

了解の旨を告げると、いちるは自分のポケットから鍵を取り出し、それを俺に手渡した。
クラブ棟から学園近くの貸店舗へ移動してますけど、鍵のタグに番地書いてるから迷いはしないはずです、と言った後、念を押すように続ける。

「この時間じゃ、まだ店も開いてないでしょうから。報告で学園に行くわけですし、ついでに菓房で一休みでも」
「有難う。礼はまた、改めて」
「いえ、こないだの温泉宿手配のお返しもありますし。完全セルフになっちゃいますけど、紅茶や珈琲の類は飲み放題ってことで」

見てすぐ分かる所に物は置いてありますから、と言い残して自転車で走り去るいちるを見送った後、振り返って円に言う。
「――行こうか」
相変わらずばつの悪さを隠しきれない俺を見て、円は微かに笑った。

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連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
ご覧になる際はその旨をご了承下さいませ。

なお、作中にご登場頂いた他PL様のPC、NPCについては
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〔承前〕

【Truth ―決着】

二振りの黒い短刀が、鈍い音を立てて地面に突き刺さる。
俺は正面から渡瀬を見据えたまま、静かに無手の構えを取った。

一点に集中する精神が傷の痛みを遠ざけ、感覚を鋭く研ぎ澄ましていく。
猛り狂うばかりだった渡瀬に変化が訪れたのは、その時だった。

「“情智”……」

獣のようだった渡瀬の瞳に、武術家としての誇りが宿る。
膨れ上がった筋肉と、尖った爪はなりを潜め――漆黒の虎紋のみを纏った渡瀬は、俺と同じく無手で構えた。

真っ直ぐに向かい合う、紅と黒の虎紋。
互いのみに伝わる、声なき礼。

――“お願いします”

それが、真の幕開けだった。

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連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
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〔承前〕

【Fighters High ―武に生きる者】

約束の朝。
日の出を迎える前に、俺は家を出た。

玄関で俺を見送ったのは、飼い猫の桜と傘太(さんた)だ。
朝晩はまだ冷えるこの時期、普段は外に出たがらない猫達だが――人より優れた感覚で、並みならぬ気配を察したのだろうか。

丸い瞳で、じっと俺を見上げる2匹を撫でた後、俺は門を潜って薄暗い空の下を歩き始めた。

諸々の打ち合わせは、昨夜のうちに済ませてある。
円といちるの2人は俺とは別に空き地へ向かい、渡瀬の目につかぬよう、近くで身を潜めてもらう手筈になっていた。

懐に忍ばせた携帯電話が、マナーモードの着信で2人の配置が完了したという合図を告げる。
ゴーストの電波妨害を警戒し、かなり早めに行動を開始したのだが――渡瀬はまだ、空き地の近くには来ていないようだ。

ちなみに、今日介はこの戦いに同行していない。
当然の如く、自分も行くとゴネたのだが……待機組にはアビリティの射程である20メートル圏内で隠れてもらうことになるため、頭数が増えれば気付かれる可能性は大きくなる。
そうなれば、なし崩し的に多対一の戦いとなり、半端な人数ではかえって不利な状況を招くことになりかねない。

それでも今日介は納得しなかったが、渡瀬と暮らしている女性の存在を伝え、万一に備えて彼女を守って欲しいと伝えたところ、ようやく了承した。

数日中に女性が害される心配は少ないと聞いてはいたが、この戦いの結果で、それがどう転ぶかわからない。
最悪の場合――ここで、渡瀬に残された理性を完全に砕いてしまうかもしれないのだから。

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連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
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〔承前〕

【I wish... ―誓い】

「突然に押しかけてしまって、すまないな」

通された座敷で、勧められるまま座布団に腰を下ろした後。
盆を手にする円に向けて、俺は開口一番、唐突な訪問に対する非礼を詫びた。
昨夜のメールで来意は告げたものの、何かと忙しいであろうこの時期に、個人的な事情で時間を取らせるのは、やはり心苦しいものがある。

「大丈夫。……話があるんだろ?」

卓に茶菓子を置き、俺に茶を勧めた後、向かい側に座った円が言う。
ああ、と短く頷いてから、俺は早々に話を切り出した。

「一つ、頼みたいことがあるんだ――」

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時間軸としては3月初旬を想定。

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【Calling ―繋がる糸】

灯りを落とした道場で、俺は一人無言で座していた。
考え事をするには、道場の空気は都合が良い。
幼少の頃からずっと立ち続けていた、板の床の冷えた感触。
学校の制服よりも、長く親しんできた道着の肌触り。
それらが俺の心を落ち着かせ、感覚を研ぎ澄ましていく。

渡瀬との戦いは、もう避けられない。
15年以上もの長い間、力を蓄えてきたリビングデッドであり。
かつて渕埼流の師範代として、卓越した技量を誇った武術家である彼。

問題は、どのようにして勝つか。
力も技も、経験も。全てにおいて、渡瀬は俺を大きく上回る。
まともに一対一でぶつかれば、勝ち目は殆ど無い。
それが『リビングデッド』と『能力者』の戦いなら。

だが、『武術家』同士の戦いに持ち込むのであれば――あるいは。

彼を執念から解放するためには、もとより方法は一つしかないのだ。
この戦いは、俺が生きてきた20年余りの全てを賭けたものになるだろう。

負けるわけにはいかない。
そして、ここで命を落とすわけにもいかない。

決意を胸に、俺は覚悟を決める。
携帯電話の着信音が鳴ったのは、そんな時だった。

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〔承前〕

【Strong-will ―決意】

渡瀬が語った、渕埼の血に潜む“呪い”。
それを一笑に付すことは、俺には出来なかった。

俺自身が、物心ついてからずっと――その“呪い”に縛られてきたからだ。

人の輪に入っていくことが出来なかった子供時代。
他の子のように笑えず、他の子のように泣けずに。
向けられた悪意に拳で応じることしか出来なかった、あの頃。
自分は何かが異質な存在なのだと、漠然と感じていた。

だから。能力者として覚醒した時、俺は心のどこかで安堵したのだ。
戦うことしか出来ないなら、死ぬまで戦い抜けば良い。
それが俺の命の使い道であり、今まで生きるのを許された理由なのだと、信じて疑わなかった。

――それが単なる逃げでしかないことに、気付かされるまでは。

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連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
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なお、作中にご登場頂いた他PL様のPC、NPCについては
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〔承前〕

【Spellbinding ―囁く声】

その一撃を、俺は辛うじて獣爪で受け止めた。
咄嗟のイグニッションが間に合っていなければ、ガードの上から骨を砕かれていただろう。

痺れる腕でなおも防御を固め、俺は渡瀬を見据える。
全身の筋肉が肥大し、鋭い爪を伸ばしたその姿は――俺が知る彼からはほど遠い。
愛する者の血肉により力を得た『リビングデッド』の姿が、そこにあった。

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連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
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〔承前〕

【Borderline ―亀裂】

長い時を経て、唐突に訪れた再会。
訊きたいことは山ほどあるのに、戸惑いが俺の言葉を詰まらせる。

「今まで、どこで何を……」
「まあ、色々あってな。あの頃のゴタゴタについては、お前も師範から聞いているかもしれないが」

渡瀬の言う師範とは、もちろん俺の祖父のことだ。
ええ、と頷いた後、俺は再び黙り込む。

「立ち話もなんだ、どこかで落ち着いて話さないか」
「――そうですね」

それは、願ってもない誘いだった。
これから話すべきこと、為すべきことを考えたら――ここは人目がありすぎる。

「師匠、この人誰? 知り合い?」

米袋とエコバッグを抱えたまま、ぽかんと立ち尽くしていたらしい今日介が、不意に口を開く。
俺は今日介を一瞥すると、有無を言わさぬ口調で一息に言った。

「詳しいことは後で話す。お前はその荷物を先に家まで運んでおいてくれ」
「え、ちょ、待ってよ師匠!」

慌てる弟子の声を無視して、俺は渡瀬と並んで歩き始めた。

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