今日と明日は学園祭。
色んなイベントや、模擬店や、出し物があったりして。
学校中、とっても賑やか。
僕たちにとって、高校生活最後のお祭りだもの。
目いっぱい、楽しまなくちゃ。
――強くなりたい。
最近の僕が考えていたのは、ただそれだけで。
だから。一人でゴーストタウンに行こうと思ったんだ。
誰かのそばに居られる強さ。
誰かを支えられる強さ。
欲しいものが手に入るかどうかは、わからなかったけど。
他に、僕はいい方法を思いつけなかった。
ふと、通りすがりに見つけたもの。
宝箱と鍵で対になった、銀製のペンダント。
ああ、可愛いな、って思って。
気付いたら、僕はそれを二つとも買っていた。
クラス対抗のソフトボール大会に参加してきたよ。
僕は7番ライトで、最初はあまりボールが飛んで来なければいいなぁって考えてたんだけど。
みんな凄い人たちばかりだから、ばしばし当ててこっちに飛ばしてくるんだよね。
必死になってボールを追いかけていったんだけど、おかげで思ったより活躍できたみたい。
まぐれだけど、ホームランも打てたしね。あれは嬉しかったなあ。
――でもね。空ちゃんには微妙に怒られちゃった。
なんだか、空ちゃんはいつもの調子が出なかったみたいで。
僕が空ちゃんの分まで運を吸い取っちゃったから負けたーって、そう言ってた。
確かに、自分でも信じられないくらいの活躍だったしなあ……本当にそうだったりして。
ごめんね、空ちゃん(しょぼーん)
あ、でもソフトボールはすごく楽しかったよ。
チームのみんな、対戦してくれたみんな、どうもありがとうね。
また、こういう風にクラスの子たちと話せるといいな。
【戦績】『うっかりバーニング』勝ち点8(7戦4勝3敗)
ゴーストタウンを出た後、僕たちは気まずい雰囲気のまま、公園のベンチに並んで座った。
僕は、ここ最近のことを何て話せばいいか、なかなかいい言葉が出てこなかったし。
空ちゃんは、そんな僕を見て、どこか困ったような笑顔を浮かべていた。
こないだから、空ちゃんの様子がおかしい。
皆と一緒に騒いでいたと思ったら、いつの間にか一人で窓の外を眺めていたり。
僕が話しかけてもすぐに気付かないで、ぼんやり考え込んでいたり。
そして、振り向いた時には決まって、笑った顔をする。
心配しないで、わたしは大丈夫だから。――そう、言うように。
でも、目は、決して僕を見てはいなかった。
こんなことが、最近ずっと続いていて。僕は、ただ心配だけしていて。
だから、この日。バトルカーニバルの試合が終わった後に、空ちゃんを見つけて。
周りに目もくれず、早足に歩くその後ろ姿を、僕は追いかけていったんだ。
――四月中旬、鎌倉市内某所。
幼い面差しに笑みを浮かべる男の手には、温かな毛に包まれた生き物が握られていた。
オレンジと白の縞模様、青く丸い瞳、柔らかな肉球。
その全ては、今や男の意のままにある。
これは裏切りの証。目的のため、男は友情に背いた。
これは勝利の証。手の内にある限り、敵は動けぬ。
しかし、切り札としては、まだ足りない。
人質を容易に奪われてしまえば、たちまち形勢は逆転する。
多少の抵抗をものともしない、圧倒的な力が必要だ。
そして――運命の悪戯か、或いは悪魔の導きか。
男は、とうとう出会ってしまった。
探し求めた力、金色に輝く雄々しき一頭の虎に。
我々の知らないその場所で。
悪の芽は静かに、しかし巨きく育ちつつあったのだ――
葛城山の殲滅戦が終わって。
土蜘蛛との戦いも、ようやく決着ということになった。
“女王”は倒したけれど、当然、こっちの被害も少なくはなくて。
4月に同じクラスになったばかりの、僕のクラスメイトを含めて、20人が犠牲になった。
この数字が多いのか少ないのか。
僕たちの選んだ道は、本当に正しかったのか。
報告書を何度読んでも、僕にはまだわからない。
……でも、今は。
僕の好きな人たちが、誰一人欠けることがなかったこと。
それを、素直に喜ぼうと思う。
死んでしまった子たちには、とても、申し訳ないことだけれど。