ゴーストタウンを出た後、僕たちは気まずい雰囲気のまま、公園のベンチに並んで座った。
僕は、ここ最近のことを何て話せばいいか、なかなかいい言葉が出てこなかったし。
空ちゃんは、そんな僕を見て、どこか困ったような笑顔を浮かべていた。
「……どうしたのさ?
珍しいよね、わざわざ追いかけてくるなんてさ」
だんだんと暗くなる中、ずっと黙ってるのが耐えられなくなったように、空ちゃんが切り出す。
いつも通りの笑い顔が、今は心にしんと痛い。
「……空ちゃん、こそ」
どうしていいかわからないまま、僕ものろのろと口を開いた。
「ここのところ、ちょっと元気なかったから……心配で」
「そうかなぁ……そんなことないはずだけど?」
空ちゃんは、ずっと笑ったまま。
でも、今の僕の目には、無表情と何も変わらない。
「……何て、言うのかな。
笑ってても、笑ってないように見えるんだ」
言っていいことかどうか迷いながらも、その言葉は僕の口をついて出た。
それを聞いて、空ちゃんが自分の頬に軽く手を当てる。
「そう? 今、笑ってないかな」
不思議そうに、おっかしいなぁ、と呟いて。
そんな空ちゃんを見つめて、僕はもう一度考えた。
僕は、空ちゃんに笑ってほしい。
ずっとそう思ってるし、空ちゃんにもそう言ったことがある。
だから、なのかもしれない。
笑っていないと、僕が心配するから。
笑っていないと、皆に元気がないと思われるから。
心は笑いたくなかったとしても、顔だけは笑っていなくちゃって。
――ごめんね、空ちゃん。
そんなつもりじゃなかった。
自分の気持ちに嘘ついてまで、笑ってもらおうだなんて。
そんなつもりじゃ、なかったんだ。
「……ねえ、空ちゃん。
無理に、笑おうとしなくてもいいんだよ……?」
もちろん、笑った顔の方がずっと可愛いに決まっているけれど。
僕が見たいのは、空ちゃんが心から笑った顔。
そんな顔を見れた時が、今まで何回あっただろう?
1回? 2回? ――ううん、もしかしたら。
僕はまだ、空ちゃんの本当の笑顔を、見たことがないのかもしれない。
「――難しく、考えなくてもいいんだ。
どんな顔してても空ちゃんは空ちゃんなんだし」
必死に、そう言葉を続けて。
精一杯の気持ちをのせて、僕は空ちゃんに笑いかけた。
「……僕は、そばにいるから」
僕は空ちゃんが好き。
空ちゃんが笑うからじゃなくて、好きだから、空ちゃんが笑った顔が見たい。
そして、それは、今すぐじゃなくたっていいんだ。
「……」
空ちゃんは小さく頷いて、おもむろに僕の頬を指でつついて。
しばらくそうした後、立ち上がってもう一度僕の顔を見た。
「さんきゅ」
街灯の光に半分だけ照らされた顔は、やっぱりさっきと同じように笑ってて。
でも、もう無表情には見えなかった。たった、ほんの少しの差だけども。
「帰ろっか」
座っていたベンチから腰を上げて、差し出した手を空ちゃんがそっと取る。
夜の薄闇の中を、僕たちは二人で並んで帰った。
【♪星の約束/ZABADAK】
【戦績】『猫誘拐団・桜と愉快な仲間達』予選2回戦目で敗退(不戦勝1回)/バトルカーニバル:2勝