こないだから、空ちゃんの様子がおかしい。
皆と一緒に騒いでいたと思ったら、いつの間にか一人で窓の外を眺めていたり。
僕が話しかけてもすぐに気付かないで、ぼんやり考え込んでいたり。
そして、振り向いた時には決まって、笑った顔をする。
心配しないで、わたしは大丈夫だから。――そう、言うように。
でも、目は、決して僕を見てはいなかった。
こんなことが、最近ずっと続いていて。僕は、ただ心配だけしていて。
だから、この日。バトルカーニバルの試合が終わった後に、空ちゃんを見つけて。
周りに目もくれず、早足に歩くその後ろ姿を、僕は追いかけていったんだ。
空ちゃんの向った先は、いつも僕たちが行く“ゴーストタウン”。
中に入っていったのを見て、僕もすぐ後に続こうとしたけれど。
どうやら、空ちゃんは随分と急いで行ったらしい。
入口のあたりからはもう、影も形も見えなかった。
たぶん、空ちゃんは真っ直ぐ奥に進んでいる。
そう思った僕は、いつもの通りの道を辿って走り出した。
廊下には僕の足音が大きく響いていたけれど、ゴースト達が出てくる気配は一向にない。
それらは全部、空ちゃんが倒したんだと思う。だからきっと、道は間違ってないはず。
進むごとに少しずつ、はっきりと見えてくる戦いの痕。
胸が、ざわざわと騒ぐ。
空ちゃんは強い。僕なんかより、ずっと。
でも、戦いに“絶対”なんてないんだ。
一人でゴーストに囲まれたら、いつか力尽きるかもしれない。
すごく、嫌な予感がする――
一番奥の部屋が見えてきた時、中から戦いの音が聞こえてきた。
慌てて飛び込んだ先では、空ちゃんは大きなゴーストと戦っていて。
僕が、身構えるより早く。
真っ直ぐ振り下ろされた空ちゃんの武器は、ゴーストに跳ね上げられて大きく宙を舞った。
「――空ちゃんッ!!」
無我夢中で叫んで、“能力”で生み出した水の刃をゴーストに向けて放つ。
コントロールには自信のない僕だけど、今回は運が良かったらしい。
全力で繰り出した一撃は、真っ直ぐゴーストの頭に吸い込まれていった。
「……あ、テル」
ゴーストの姿がかき消えた後、ようやく空ちゃんが僕に気付いて振り向く。
まるで何事もなかったみたいに、口元だけ笑って見せて。
それがまた、僕を不安にさせる。
空ちゃんの怪我の具合を診て、僕の蟲に頼んで、軽く治療をしてもらって。
お互いに交わす言葉もどこかぎこちなく、僕たちはゴーストタウンを後にした。