空ちゃんに連れられて来た海。
波は静かで、潮風が涼しくて気持ちいい。
あちこち身体は痛いけれど、それでも心地良かった。
「少しは自分の実力ってのをわきまえなよ。
……あんたは、寅じゃないんだからさ」
砂浜に寝っ転がる僕に、空ちゃんが言う。
呆れ顔でも、心配してくれてるのがわかった。
「このくらいやらないと、強くなれない気がしたんだ」
「強くなる前に死ぬよ?」
空ちゃんの言葉に、脅かすような調子はまるでなくて。
だから余計に、その重さが伝わってくる。
僕は弱い。自分ひとり、守れないほど。
「あは……それは、困るなあ……」
溜息といっしょに、つい、弱気が口をついて出る。
「――空ちゃんに、会えなくなっちゃう」
今のままじゃ、きっと、空ちゃんの力になれないと思う。
だから、もっと強くなりたい。
僕はまだ、ただ空ちゃんの隣に居るだけ。
そうじゃなくて。
何があっても、支えられる強さが欲しいんだ。
「だったら無茶は……」
言いかけて、空ちゃんの声が途切れる。
我慢できなくなった涙が、次々と、僕の頬を伝って零れていた。
ごめんね、空ちゃん。僕は、こんなに弱いから。
心配させて、迷惑ばかりかけて、ごめん。
「我慢しなくて良いよ――今日は、許す」
優しい声と、頬に触れる指が、とても温かくて。
僕はまた、声を上げて泣き出した。
空ちゃんは、ずっとそばで見守ってくれていて。
それがとても、嬉しかった。
「まずは泣かないのが一番じゃない?」
「……あは、そうかも……」
しばらくして、ようやく泣き止んだ僕を見て空ちゃんが笑う。
ぐずる鼻をすすって、僕は砂を払いながら立ち上がった。
身体はまだ少し痛いけど、もう平気。
「シャツに鼻水つけたら、怒るよ」
そう言って背中を向けた空ちゃんについて、バイクの後ろに乗っかる。
見上げた空は、やっぱり綺麗に晴れていた。