〔承前〕
何事もなく数日が過ぎた。
傷は殆ど塞がったものの、まだ万全ではない。
失血により消耗した体力が戻るまで、あと一晩は要するだろう。
大学は既に夏休みに入っており、道場も傷が治るまでは、という約束で、祖父が全てを引き受けてくれている。
取り立ててやる事もなく、また傷の痛みもないとなれば。
身体慣らしも兼ねて軽くゴーストタウンにでも行こうか……とも思うのだが。
友人達にこぞって止められたこともあり、自重しているのが実情だった。
これはこれで、時間を持て余す。
外を見れば、数日の雨が嘘のように青空が広がっている。
祐平から電話がかかってきたのは、そんな日の昼下がりだった。
痛みに目を覚ますと、うっすらと見慣れた天井が見えた。
夏だというのに、全身に冷たい汗をかいている。
心臓の鼓動が、激しく波を打っていた。
徐々に覚醒する意識が、理性と記憶を呼び戻す。
枕元に目を向けると、そこには依頼の報告書の束。
妖獣の一撃に倒され、俺が重傷を負ったのは昨日のことだ。
目覚めた今は、嫌というほどわかる。
何故、あのような悪夢を見たのか。
その理由も、由来も。
痛みを堪えるうち、無意識に左頬の傷を撫ぜている自分に気付く。
先の戦いで負った傷では、無い。
家の外では、しきりに雨が降り続いていた。