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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/04/25 (Thu)

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連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
ご覧になる際はその旨をご了承下さいませ。

なお、作中にご登場頂いた他PL様のPC、NPCについては
PL様ご本人より事前に許可を頂いております。
―――――――――――――――――――――――――――


〔承前〕

【Borderline ―亀裂】

長い時を経て、唐突に訪れた再会。
訊きたいことは山ほどあるのに、戸惑いが俺の言葉を詰まらせる。

「今まで、どこで何を……」
「まあ、色々あってな。あの頃のゴタゴタについては、お前も師範から聞いているかもしれないが」

渡瀬の言う師範とは、もちろん俺の祖父のことだ。
ええ、と頷いた後、俺は再び黙り込む。

「立ち話もなんだ、どこかで落ち着いて話さないか」
「――そうですね」

それは、願ってもない誘いだった。
これから話すべきこと、為すべきことを考えたら――ここは人目がありすぎる。

「師匠、この人誰? 知り合い?」

米袋とエコバッグを抱えたまま、ぽかんと立ち尽くしていたらしい今日介が、不意に口を開く。
俺は今日介を一瞥すると、有無を言わさぬ口調で一息に言った。

「詳しいことは後で話す。お前はその荷物を先に家まで運んでおいてくれ」
「え、ちょ、待ってよ師匠!」

慌てる弟子の声を無視して、俺は渡瀬と並んで歩き始めた。

隣を歩く渡瀬が、ちらりと今日介を振り向いて言う。

「あの子は門下生か?」
「――ええ」

そうか、と答える声に、それ以上の興味を感じさせるような響きはない。

「最近の子供はでかいな。お前はそうでもないようだが」

渡瀬の背丈は171cmの俺とほぼ同じくらいで、既に190cm近い今日介とは頭半分以上の差がある。中学3年でこの身長なら、成人する頃には2メートルに届くだろう。

「オーバーワークが祟ったんですよ。成長期にやり過ぎましたからね、色々」
「無理な筋トレは縦に伸びなくなるからな。――でもまあ、少しは人並みになったじゃないか。ガキの頃はチビ助だったからなあ、お前」

苦笑する俺をからかうように、渡瀬が笑う。

「今は師範代か」
「ええ。師範になる日は遠いと思いますが――」

武術道場の師範とは、ほとんどの場合、生涯現役で務めるものである。
現在の師範は祖父であり、70歳を越えた今でもまだまだ元気だ。
俺自身も、師範として道場を継ぐ日は遠い方が良いと、そう考えている。
祖父から学ぶことは、まだ多い。


他愛のない話をしながら、路地を抜けて広い空き地へと出る。
潰れた商店や、打ち捨てられた廃屋が並ぶ一帯で、この空き地もそうした建物を取り壊した後に、買い手がつかず更地のまま放置されている。狭い道路は車が通るにも不便で、人通りは無いに等しい。

「随分と寂しいところだな」
「ここに来た理由は、わかっているでしょう」

周囲を見渡して肩を竦める渡瀬の動きが、俺の言葉で止まる。
渡瀬の顔は笑っていたが、その視線は鋭く俺を捉えて離さない。

「――流石に、気付いていたか」
「嫌でも気付きますよ。顔を見なくても、匂いで」

強い香水の匂い。
そして、そこに紛れたもう一つの臭い。
能力者となってから、嗅ぎ慣れてしまった臭いだった。

「わかっていて、何故あの子を帰した?」

渡瀬の視線が、挑むように俺を射抜く。
その口から、挑発するような声が漏れた。

「――俺ごとき、一人で勝てるとでも?」
「そこまで自惚れてはいませんよ」

間違いなく、それは本心だった。
元の実力を考えても、ここに至った経緯を考えても、俺一人どころか、今日介と二人でも手に余ることは容易に予想がつく。
それでも、あえて一対一を選んだのは――。

「知られたくなかっただけです。かつての師範代が――生ける屍と化して人の血肉を啜っている、その事実を」

決定的な一言を口にしてしまった、その時。
俺は思わず、拳を強く握り締めていた。

気付きたくなくとも、気付かざるを得なかった。
血の気が失せた青白い顔。
香水に紛れて漂う、僅かな死臭。
そして――何よりも。

「いつからですか」
「……」
「私の記憶が確かなら、あなたは50歳近くになるはずだ」

眼前の渡瀬の外見はせいぜい30代半ば――どんなに頑張っても、40歳には届いていないだろう。
それだけで、彼が人から外れてしまったのだと気付くには充分だった。

『リビングデッド』――死してなお、尽きぬ想いにより動き続ける屍。
放っておけば腐り落ちるだけの、彼らの肉体を維持する糧はただ一つ。
自らを愛する者の血肉。それ以外にはない。

「いつから人を喰らうようになったのかを、訊いているんです」

喉から絞りだした言葉が、己の胸に重く響く。
リビングデッドとして偽りの生を過ごした期間は、喰らった命の数に比例する。
個人差はあっても、それは動かしようがない。

「――お前の見たままだよ」

15年――いや、それ以上。15年から20年の間、か。
予想していたとはいえ、やはり衝撃は避けられなかった。
「そんなに、長く……」

その間に奪われた命がどれだけなのか、想像も出来ない。
敬愛する彼が、それほど多くの人を殺めたという事実が、瞬く間に俺を打ちのめした。

「そうだ。ただ一つの執念が、俺をこの世に繋ぎとめた」

渡瀬の声が急激に低く、冷徹な響きを帯びる。
俺の背筋に、冷たい汗が流れた。

「30年前の約束、今こそ果たしてもらうぞ――情智(さねとも)」

彼の呼んだ名が、俺が生まれる前に亡くなった伯父のものだと気付いたのは、数瞬の後。
強烈な一撃が襲ってきたのは、それと同時だった。

〔続く〕
 

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