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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

―――――――――――――――――――――――――――
連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
ご覧になる際はその旨をご了承下さいませ。

なお、作中にご登場頂いた他PL様のPC、NPCについては
PL様ご本人より事前に許可を頂いております。
―――――――――――――――――――――――――――


〔承前〕

【Spellbinding ―囁く声】

その一撃を、俺は辛うじて獣爪で受け止めた。
咄嗟のイグニッションが間に合っていなければ、ガードの上から骨を砕かれていただろう。

痺れる腕でなおも防御を固め、俺は渡瀬を見据える。
全身の筋肉が肥大し、鋭い爪を伸ばしたその姿は――俺が知る彼からはほど遠い。
愛する者の血肉により力を得た『リビングデッド』の姿が、そこにあった。

「情智(さねとも)――嬉しいよ。また、お前と闘ることができて」

生前の面影を残した渡瀬の顔が、狂気に歪んだ笑みで俺を眺める。
しかし、彼が呼ぶのは俺の名ではなく、遠い昔に亡くなったはずの伯父の名だ。
三人兄弟だった父の長兄にあたる伯父のことを、俺はほとんど知らない。

「お前が俺の前からいなくなってから、何年経ったんだろうなぁ……長かったよ、待つのは」

記憶が確かなら、伯父が病死したのは俺が生まれるよりずっと前のことだ。
そういえば。かつて、渡瀬は伯父の情智と親友であったと語っていなかったか。

渡瀬が死してなお蘇った理由。
それは、無二の親友でありライバルでもあった伯父と、決着をつけるためなのか。

「これだけ待たせたんだ、存分に付き合ってもらうぞ」

渡瀬が道場を去った、あの日。
幼い俺に再会を約束し、今になって姿を現した真意は。

伯父の代わりに、俺と戦うためか。
俺が、亡き伯父と同じ年齢まで成長するのを、待っていたからか。

「俺かお前か――どちらかが倒れるまでな」

そのために。15年以上の間、人を喰らい続けてきたというのか――?


「……渡瀬、さん」

あまりの衝撃に、思わず我を失った数瞬。
それは、戦いにおいては致命的すぎる隙だった。

しまったと思った時は、もう遅い。
渡瀬の二本貫手が、俺を目掛けて真っ直ぐ突き出され――鎖骨の上、喉笛の真下を貫かれる直前で止まった。
爪の尖端が皮膚を破り、鋭い痛みで息が詰まる。

その気であれば、今の一撃で確実に俺を殺せたはずだ。
何故そうしなかったのか訝る俺に向けて、渡瀬が再び口を開いた。

「――なあ、“寅靖”」

伯父ではなく、俺の名を呼ぶ声に、先程までの狂気の熱は無い。
人ならぬ姿に変貌を遂げた彼の瞳は、悲しげにすら見えた。

「お前の伯父――情智はなぜ死んだと思う」

戸惑う俺に投げかけられる疑問。
渡瀬の意図は読めないが、俺の首元には彼の爪がまだ刺さったままだ。
今は、話に応じながら隙を窺うしかない。

「病死したと、祖父に……そう聞きましたが」
「違うね」
「……どういう、ことですか」

確信に満ちた渡瀬の瞳に、僅かな怒気がよぎる。

「あいつは殺されたのさ。この世界に」

渡瀬の指先に力が篭り、俺の首元から捻るように指が抜かれる。
痛みとともに、血の流れる生温い感触があった。
構わず距離を取り、渡瀬の挙動に注目する。
二度と不意を打たれるわけにはいかない。その時は、今度こそ命を奪われるだろう。
気を抜かずに、俺は続く言葉を聴く。

「情智だけじゃない。あいつの弟である精定(きよさだ)や、お前の父親の静成(よしなり)も――そして、この俺自身も」

言葉を一旦切って、渡瀬が天を仰ぐ。
わだかまる澱を吐き出すように、ゆっくり息をつき――囁くように、彼は言った。

「“俺たち”を拒むこの世界に、殺されたんだ――」

それを聞き、俺の脳裏に一つの単語が浮かぶ。
この世に溢れる神秘の力を拒む力、『世界結界』。

かつて、全世界を覆った『世界結界』によりゴーストは姿を消した。
異なる世界から現れたとされる『来訪者』は封印の眠りにつき、人類は誰もが持っていたはずの『力』を失った。

『世界結界』が綻びた現代、俺たちのような『能力者』が操る『力』こそ、遠い過去に人類が失った『力』に他ならない。

つまり、渡瀬もまた――。

「なあ、寅靖……俺に協力してくれないか」

右手の人差し指と中指、二本の爪を俺の血に染めたまま、渡瀬が問う。

「……何を、ですか」
「決まっているだろう」

爪から滴る血を舐め取り、彼は凄絶な笑みを浮かべた。

「俺から友を奪い、お前から家族を奪った――この世界をぶち壊すのさ」

ゴーストとして長きに渡り力を蓄えてきた渡瀬がその気になれば、世界結界に打撃を与えることは容易い。
ここ最近の情勢はとみに慌しく、少し前までは銀誓館学園そのものに対する襲撃も相次いで起こった。
世界結界を修復するメガリス『聖杯』が学園の手にあるとはいえ、短期間に大きなダメージを与え続ければ、『聖杯』により修復できる限界を越える危険すらある。

「世界結界を、破壊するつもりですか」
「俺やお前のように、特異な能力を持つ者を拒む力をそう呼ぶのなら」
「そんなことを……許すわけにはいきません」

世界結界が破壊されてしまえば、この世はゴーストに溢れてしまう。
今は力を持たない人が、それに目覚める前にゴーストに襲われてしまえば、死は避けられないだろう。

そして、何よりも。
家族や友、大切な人たちが暮らすこの街を。
そんな、血腥い弱肉強食の戦場にはしたくなかった。

渡瀬がそれをすると言うのなら。
己が全霊をかけて戦うのみだ。
たとえ、彼が敬愛する恩人であったとしても――。

「死にたくはないだろう?」

間合いを測りつつ拳を握り締める俺に、不意に声がかけられる。
言われなくても、彼我の実力差は承知している。まともに正面から戦えば命は無いだろうが、今の俺は、ここで死ぬわけにはいかない。
感覚を研ぎ澄ませ、勝機を探る。

「死ぬ気はありません。ですが――あなたを見過ごすことも、到底出来そうにない」
「慌てるなよ。そういう意味じゃあない」

首を横に振り、渡瀬は静かな声で続ける。

「情智が死んだのはな、お前と同じ21歳の時だ。あの、風邪一つひかなかった頑丈な奴が……呆気なく、原因不明の病で死んだんだ」

僅かに細められた目が、哀れむように俺に向けられた。

「このまま放っておけば、お前も死ぬ。――その力がある限り、長生きは出来ない」

彼の声に、俺を挑発する響きは無い。
本心から俺の命を惜しんでいるような様子に、戸惑いが膨らんでいく。

「渕埼の家系が、どうして代々短命なのか考えたことはないか? その中で、お前の祖父だけが長生きしていることを、疑問に思ったことはないか?」

惑わされてはいけない。
これ以上、渡瀬の言葉に耳を傾けてはいけない。
その先を聞いてしまったら、俺は――。

「答えはこうだ。渕埼の血に伝わる力を、この世界が拒んだから。そして――お前の祖父だけは、血に力を眠らせたまま、それが表に顕れなかったからだ」


――この家さ、呪われてるんだよ。

幼い日、夕暮れの庭で塀の向こう側から響いた男の声。


――知っておるか寅靖。儂らの祖先には鬼が居たそうだぞ。

ある時、唐突にぽつりと語った祖父の声。
炎を操り、背から腕を生やして人の精を貪る、その鬼の名は?

『世界結界』により、眠りについたはずの『来訪者』。
彼らが封印される前に、人との間に子を残していたとしたら?

この現代において人として生きる彼らの子孫にも、『来訪者』の血は僅かに受け継がれていることになる。
かつて『来訪者』を拒んだ『世界結界』は、彼らの血にどう働きかけるのだろう?

まさか――。

全ての始まりは。
渕埼の一族に脈々と流れてきた血の、最初の一滴であると。
そういう、ことなのか……?

「そうだ。それが――渕埼の男たちを死に至らしめた“呪い”の正体だ」

言葉を失った俺に、渡瀬が大きく頷いた。

〔続く〕
 

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