【※掛葉木・いちる君のSSとリンクしたエピソードです】
→【SWALLOW EDGE・――curiosità. -pendolarismo- 】
雲一つない空から、真夏の太陽が容赦なく地上へ照りつけてくる。
7月下旬の昼下がり、気温は当然のように30度を越えている。大学の試験を終えて鎌倉まで戻り、それからここに至るまで歩き通しだったためか、汗とともに疲労が滲み出る。
坂を上りきると、高台から青い海が見えた。
ハンカチで額の汗を拭いながら、目的の店を探す。
幸いにも、さほど苦労することなく見つけることが出来た。
入口に飴色の揺り椅子が置かれた、季節により場所を変える菓房。
それこそが、年少の友人が営む結社“-Vigilia di Natale-”。
店の扉を開けると、カウンターの奥に尋ね人の姿があった。
「――学園にもバイト先にも自宅にも居ないとなれば、やはり此処だったか」
背中越しに声をかけると、来客に気付いた彼もまた振り返り。
「……渕埼先輩?」
彼――掛葉木・いちるは、しかし俺の顔を見ると眉根を寄せ、俺の位置に一番近いテーブルをこつこつと指で叩いた。
2010年4月馬鹿・寅靖のステータスシートなど。
こちらから絡んだり、絡んで頂いたりした結果、
ストーリーが膨らみすぎて大変なことになりました(笑)
詳細は近日中に連作SSとして執筆予定。
まずは、関係者の皆様へ感謝を。
【※掛葉木・いちる君のSSとリンクしたエピソードです】
→【SWALLOW EDGE・――pendolarismo. 】
つくづく、隠し事が下手だと思う。
もう少し上手に秘めていられたなら、きっとこれほどに悩みはしなかっただろう。
ただ友人として、笑って手渡せば良いのだから。
負担になりたくないと願い、それは心から真実であるはずなのに。
俺という人間は、どこまでも矛盾だらけだ。
「……あの、お祖父様」
「どうした」
「その……もしも、の話ですが」
「? 歯切れが悪いぞ寅靖、言いたい事は簡潔に話せ」
(しばらくの間)
「その……怪しげな風体の女性に何か誘いを受けても、決して取り合わないで下さいね」
「(もの凄く怪訝そうな顔)――何を言っておるんだ、お前は?」
「……戯言です、忘れて下さい」
――教室の依頼群を見て少しだけ心配になったらしい孫。
基本的に件の依頼群は老人全般というより『生への執着が強い老人』をターゲットにしてるっぽいですが。
寅靖の祖父はツンデレなので『孫が一人前になるまで死ねない』くらいは思ってるかも。
それにしても、その言い方は非常にいかがわしいぞ寅靖。
【※七瀬・残菊氏のSSとリンクしたエピソードです】
→ 【暗闇ジャイアニズム・11月1日(calling-16)前】
→ 【鬼の話・まとめ記事】
久々に、ゆっくりと本を読んでいる。
ここ最近は何かと慌しくて、こういう機会は持てずじまいだった。
だから、だろうか。
暇潰しのつもりが、今はすっかり活字を追うことに夢中だ。
部屋の静けさが、過ぎる時間を忘れさせる。
ふと視線を落とすと、左腕の腕時計は11時50分を指していた。
そろそろ、帰ってくる頃合だろうか。
そう思い浮かべた矢先、気配と足音。
一昔前の黒電話に似たドアチャイムは、少し遠い音として耳に届いた。
読んでいた短編集を、そっと本棚へ戻す。
五感の殆どを閉ざされた男の物語。
目に見えぬ住人とその飼い猫と、2人と1匹の奇妙な同居生活を送る学生の物語。
それらの余韻が、この作家特有の後味を伴って心に残る。
玄関に向かうため、室内の三方を埋め尽くす本棚の前を通り過ぎる。
日迎の専門であろう『水』に関する蔵書のコーナーの中、ひときわ蒼い背表紙が、一瞬目を引いた。
今は、友人を出迎えるのが先だ。
ドアを開いて、久々に会う友人の顔を眺める。
一瞬のうちに色々な想いがよぎったが、しかしそれは言葉にならなかった。
代わりに出てきたのは、至っていつも通りの声。いつも通りの笑顔。
「――おかえり。特に変わった事はなかったよ」
右目を眼帯とガーゼで覆い、至る所に傷を負った友人――七瀬・残菊は。
俺を見て、ただいま、と笑った。
【※注意!】
掛葉木・いちる君の連作SS『-真夏夜に舞えGhost Dance!!-』内の
とある1エピソードとリンクした話となっておりますが、
元々が、あの事件に関わったメンバーの誰を当て嵌めても良いように
書かれているエピソードであるため、これが正史とは限りません。
『出会ったのが寅靖だったら』という『IF』としてお読み頂けると幸いです。
→【SWALLOW EDGE・連作SS目次】
→【SWALLOW EDGE・密やかな来訪者 -真夏夜に舞えGhost Dance!!-】
それは、戦争があと数日後に迫ったある日の事だ。
ここ最近、偽身符に任せられない私事が重なったこともあり、今回はポジションの相談にも思うように顔を出せずにいたが、この日は学園に来ていた。
戦場として予想されるエリアや、敵の戦力などを書き記した資料にざっと目を通した後、また激しい戦いになるだろうなと予感する。
せめて自分の親しい人々だけでも、欠けることの無いようにと願うのは、身勝手に過ぎるだろうか。
資料を鞄に押し込んだ後、俺はゆっくりと立ち上がった。
個人的な準備は大体は終えていたし、一度家に戻って食事の準備でもしたら、今度はポジションに顔を出そうか……などと考え、冷蔵庫の中身と献立を交互に思い浮かべつつ、広大な学園の敷地内を歩いていく。
ふと、視界の端に一匹の猫が映ったのはそんな時だった。
白地に虎縞の、まるで中国の四神『白虎』がそのまま小さくなったような、一風変わった猫だ。
当然、見るのはこれが初めてなはずなのだが。その姿に、何故か既視感を覚えて、しばし考え込む。
確か、あれは夏の……
――猫の姿が白に焦げ茶の虎縞だからまるでミニ白虎縫いぐるみ。
「あ」
ようやく、俺はその白い虎猫が誰なのかを思い出していた。
〔承前〕
何事もなく数日が過ぎた。
傷は殆ど塞がったものの、まだ万全ではない。
失血により消耗した体力が戻るまで、あと一晩は要するだろう。
大学は既に夏休みに入っており、道場も傷が治るまでは、という約束で、祖父が全てを引き受けてくれている。
取り立ててやる事もなく、また傷の痛みもないとなれば。
身体慣らしも兼ねて軽くゴーストタウンにでも行こうか……とも思うのだが。
友人達にこぞって止められたこともあり、自重しているのが実情だった。
これはこれで、時間を持て余す。
外を見れば、数日の雨が嘘のように青空が広がっている。
祐平から電話がかかってきたのは、そんな日の昼下がりだった。
痛みに目を覚ますと、うっすらと見慣れた天井が見えた。
夏だというのに、全身に冷たい汗をかいている。
心臓の鼓動が、激しく波を打っていた。
徐々に覚醒する意識が、理性と記憶を呼び戻す。
枕元に目を向けると、そこには依頼の報告書の束。
妖獣の一撃に倒され、俺が重傷を負ったのは昨日のことだ。
目覚めた今は、嫌というほどわかる。
何故、あのような悪夢を見たのか。
その理由も、由来も。
痛みを堪えるうち、無意識に左頬の傷を撫ぜている自分に気付く。
先の戦いで負った傷では、無い。
家の外では、しきりに雨が降り続いていた。