この日を、素直に暖かい気持ちで迎える事が出来るようになったのは、つい数年前のことだ。
世間で、生まれた日を祝う習慣があることは知っていた。
子供の頃、厳格を絵に描いたような祖父が、一年でこの日だけは、不器用ながらも精一杯の心を尽くしてくれたことも覚えている。
それでも、あの当時の俺にとって。
自らの誕生日とは、ただ年齢を重ねる節目にしか過ぎなかった。
少なくとも、2年前――18歳の誕生日までは。
2009年4月25日。
俺は本日、20歳の誕生日を迎えた。
〔承前〕
「――寅靖!」
何度目かの呼びかけの後、俺の意識は急速に現実へと浮上した。
視界が次第に焦点を取り戻す中、地下街の薄暗い天井が映る。
それを遮るようにして、見慣れた顔が俺を覗き込んでいた。
「……円?」
重く空気の澱んだ、薄暗い地下。
最後の一体を倒してもなお、戦いは終わらない。
長年封じられた死の臭いと、怨嗟の呻き。
悪しき気配が強まり、逆巻く怨念が新たなゴーストと化してゆく。
視線を向けた先、巨体に黄金の炎を纏った地縛霊の姿が見えた。
「新手――いや、真打登場ってとこだな。ハッ、上等だ」
たった今、リビングデッドを屠ったばかりの武器を構え、剛一が不敵に笑む。
この男の声は、如何なる逆境でも力に満ちている。
光の届かない地下においても、それは些かも揺らがなかった。