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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

〔承前〕

「――寅靖!」

何度目かの呼びかけの後、俺の意識は急速に現実へと浮上した。
視界が次第に焦点を取り戻す中、地下街の薄暗い天井が映る。
それを遮るようにして、見慣れた顔が俺を覗き込んでいた。

「……円?」

意識が覚醒するにつれ、それ以前の記憶が徐々に蘇る。
怒りに我を失った後、俺は他の一切を顧みず、黄金の地縛霊を狂ったように殴り続けた。
異変を察して駆けつけた剛一の加勢で地縛霊は斃れたものの、防御をかなぐり捨てた俺の戦いぶりは聖雪や円をもってしても治癒が追いつかず、ようやく正気に返った頃には戦闘不能寸前まで追い込まれていた。

この連戦で、既に全員が回復の技を使い尽くしている。
帰る前に少し休めば良くなると、強がりを言って腰を下ろしたところに、円が俺を捕まえたのだ。

俺がこの身に宿すのは、来訪者“土蜘蛛”の異能。
そして、円が用いる“土蜘蛛の巫女”の能力は、唯一、技に拠らず土蜘蛛を癒す術を備えている。

「人の膝で寝入るなんて、いい根性してるな?」
「……」

土蜘蛛の巫女が、傷ついた土蜘蛛を癒す方法。
それは、10分の間、巫女が土蜘蛛に膝枕をし、特殊な言葉を囁くことである。
つまり俺は、円に膝枕をされたまま、数分間意識を失っていた訳で。
彼女のからかうような口調が、途端にばつの悪さを刺激した。

「駄目だ。まだ、10分経ってないんだから。治るものも治らないだろ」

上体を起こそうとした俺を、円の両腕が制する。
もう大丈夫だと口を開こうとしたところに、小さな声が重ねられた。

「――いつも、無茶ばかりしてさ」

見下ろす視線は、俺が傷を負った肩口へと向けられている。
まるで自分がその痛みを堪えているような、切ない表情。
瞬間、俺は返す言葉を失った。


目覚める前に夢で見た、幼い頃の記憶がふと蘇る。
両親の死から俺の心に打ち込まれた楔は、自らの存在意義を常に問い続け。
やがて能力者として目覚めた時、それは因果という名の鎖へと変わった。

俺は戦わねばならない。
戦って、ゴーストを滅ぼさねばならない。
人として何かが壊れた、呪われた身ならば。
同じく祝福されぬ者達を、一体でも多く道連れにして死ぬべきだ。
それこそが、両親を犠牲に生き延びた俺に残された役目であるだろう。
ひたすらに戦え。この身が砕けるまで。

戦い始めた当初、自らに課した思いは常に俺の中にあり。
故に、俺は傷つくことも、死すらも恐れなかった。
望んだことはなくとも、いつそうなっても良いと、覚悟していた。

いずれ敗れる日が来たとしても、死ぬのが自分一人ならば簡単だ。
その考えが誤りだと気付いたのは、いつの事だったか――

「寅靖。……ちゃんと聞いてンのか?」

無意識に思索にふけっていたところを、円のやや不機嫌な表情と声で我に返る。

「すまん、聞いてる、大丈夫だ」
「なら、いいけどな?」

円が心から俺の身を案じていることが分かるから、謝罪の言葉は素直に口をついて出た。
短いやり取りの後に数瞬の沈黙が過ぎ、頭上からそっと、優しげな声がかけられる。

「――傷が治ったら、帰ろう、な」

頷いた後、何となく照れ臭くなり視線を逸らしたところに、俺達から少し離れたところに並ぶ聖雪と剛一の姿が映った。
どこか遠巻きにこちらを窺っており、聖雪に至っては口元に笑みすら浮かべているように見える。
俺は全力でこの場を逃げ出したい衝動に駆られた。

「……ところで、まだ時間にならないのかな」
「うん、まだ」
「もう傷は塞がってると思うんだが」
「パパはせっかちだなぁ。まだったら、まだ」
「……」

内心の動揺を知ってか知らずか、むしろ困る様を楽しんでいるかのような口ぶりに、再度言葉を失う。
あらゆる視線から逃れようと顔を背けた時、唐突にこみ上げる想いがあった。

――ああ、俺は独りではないのだ。

俺が戦う理由は何か。
以前のように、自らの存在意義を確かめるためではない筈だ。

数々の出会いがあり、別れがあり。
取り返しのつかない失敗で多くを失い、なお足掻き続けてはいても。
自分に出来る限り、戦い、生き抜かねば。
今は、強くそう思う。


俺の名を呼ぶ友の声。その、心地良さゆえに。

【♪アンインストール/遠藤正明】 [YouTube]

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