事の起こりは、“ゴーストタウン”に初めて足を運んだ時のことだ。
愛知県にあるその廃ホテルは、少し聞きかじっただけでもかなりの曰くつきで、今はゴースト達の格好の住処になっているらしい。
そこで、“能力者”の出番となる。
俺は“能力者”としてはかなり新米で、覚醒した己の力について、まだ掴みきれてはいない。
ならば、実地で鍛えていくしかないと考え、休日を利用してここに来た。
単独で向かうことに不安がないわけではないが、まさか宣昭を連れて来るわけにもいかない。
あいつは連れて行けと駄々をこねたが、同行者の面倒を見てやれるほど、まだ余裕がなさそうなのも事実だ。
そうやって足を踏み入れた先で、俺は“白馬 旋”と出会った。
形としては、白馬とゴースト達の戦いに、俺が割って入ったことになる。
あいつは俺より能力の扱いに慣れていたが前衛を不得手としていたし、俺は俺で、ゴースト相手の戦闘に戸惑っていた。
お互いに手を組むことで、俺たちはより安全に進めることができるようになった、というわけだ。
無事に探索を終えた後、白馬と俺は連絡先を交換して別れた。
渡されたメモには、楽器店の名と、その位置が記されており、俺は、週明けに挨拶がてら足を運んでみることにした。
音楽は、今までの俺にはまったく縁のない世界だ。
もっとも、白馬に言わせると『それは“自分で演奏をしない”というだけであって、本当に縁の無い人間などいない』ということになるらしいが。
まあ、確かに一理はある。
白馬に会い、話をしながら店内を冷やかしていると、ふと、一台の楽器に目が留まった。
落ち着いた色合いのアコースティックギター。手に取ってみると、感触がしっくりと馴染む。
「買うなら、一通りは教えられる」と声をかけられ、一度はそれを断ったものの、楽器に触れた時の印象の強さはなかなか消えない。
「お前の手の大きさなら、コード押さえるのも楽だと思うぞ」
「……そういうものか」
結局、俺は白馬の言葉に乗せられる形になり、そのギターを買うことにした。
衝動買いと言ってしまえばそれまでだが、これはこれで面白い。