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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

※今回は下記のSSとリンクした記事となっております。
   この場を借りて、円嬢とその背後殿に深く感謝と謝罪を。
  (謝罪の理由は本文中にて……)

関連リンク【円サイド】:『昇る月』



元はマンションの建設予定地だったという『ゴーストタウン』。
打ち捨てられた工事現場は、やけに冷たい風が吹いていた。

既に日は沈み、まだ月の昇らぬ空は闇色で、辺りはどこまでも薄暗い。
見渡す限り、錆びた鉄骨が立ち並ぶだけのこの場所で。
俺は、一人の友人の姿を求めて、ただ、前へと進んでいた。

ゴーストの一体が、左腕の手甲に仕込んだ獣爪に裂かれ、怨嗟の絶叫を上げる。
ひたすらに苦痛を訴え、呪いの言葉を吐き続ける、どす黒い思念。
ここは、そういった“もの”たちで溢れていた。

戦いは程なくして終わり、ゴーストたちは皆、再び屍と化すか、塵も残さず消えてゆく。
再び訪れた静寂の中、耳の奥に、陰鬱にくぐもった声が、なおも反響を続けていた。


この地で果て、ゴーストと化した者たちの声。
しかし、同じ場所でこれを耳にした友人には、それは別の声に聞こえたことだろう。

既に動き始めてしまった惨劇。
無辜の市民を都市ごと犠牲とする、恐るべき計画。

情が深く、責任感の強い彼女だからこそ。
計画阻止の任を果たせなかった心中は、察するに余りあった。



しばらく、当てもなく探し回った後。資材置き場とおぼしき開けた場所で、束ねた鉄材の上に腰を下ろす友人を、ようやく見つける。

夜の遠目にも明らかなほど、無防備に過ぎる姿。
俺が歩み寄っても、反応一つ示さない。
これが、もし。敵意を持った者の接近であったなら。

「――円」

声をかけた先で、やっと顔を上げた円が、「……寅靖」と、俺の名を呼ぶ。
表情からも、声からも、平生の張りがまるで感じられず。
焦燥すらも通り越し、虚ろな抜け殻と化したかの様子に、胸の裡に抱えていた不安が、不吉な想像を伴って一気に膨れ上がる。


気付けば、俺は円の眼前で右腕を振り上げ。

平手で、その頬を強かに打っていた。


「……っ!」

加減を誤り、存外重くなった手応えを殺すように。
円の頬を打った手を、直後、強く握り締める。
爪が掌に食い込み、血が流れ出そうと、力を緩めるわけにはいかなかった。
後悔も痛みも、今は、悟られてはならない。

「一人で背負うな、と言ったはずだ」

声が震えそうになるのを、辛うじて堪えつつ。
拳を握り締めたまま、円へ向けて口を開く。

発する言葉は頼りなく、月並みで陳腐でもあり。
それは円に届きはしても、心に響きはしないかもしれない。
ただ、それでも伝えずにはいられなかった。


たった数日後、円は次なる任務に向かわねばならない。
死よりも残酷な苦痛に苛まれ続ける人々を、一刻も早く解放するべく。
彼女は、自らの全てを懸けるだろう。

円の実力は知っている。
どれだけ、肩を並べるに頼もしい存在であるかも。
だが、今の状態では。
いつも通りに戦うことすら、ままならない可能性が高い。

戦いに於いて、我を失うことはそのまま死に繋がる。
この危険な任務であれば、尚更だ。
流れ出す血ごと握り締めた拳に、さらに力が籠る。
友を喪うことなど、考えたくもなかった。


「――為すべきことがあるのなら。
 譲れない想いが、あるのなら……!」

何よりも、大切な者たちの存在を。
自らの帰りを待つ者たちが、確かに居るということを。
決して、忘れてはならないのだ。


無力を知るのは辛い。救えないのはもっと辛い。
落ち込むことを、誰が止められようか。


だから。――今だけは、強くあろうとするな。
だから。――どうか、頼って欲しい。
もし、そうすることで、再び立ち上がることが出来るなら。
声を限りに、泣き叫んだって構わない。

自ら立ち上がるため、誰かの手を借りるのは。
決して、甘えではないのだから。


「今日は、帰れ……」

結局、伝えたい言葉の半分も声にできぬまま。
血を流す拳にそっと伸ばされた、円の手から逃れるようにして。
俺は背を向け、その場を去った。


胸をよぎるのは、無抵抗の友に手を上げた後悔。
固く握る拳は痛みに痺れたまま、なおも力を緩めることを許さない。

悔やむだけなら、いつでも出来る。
それなら、せめて、為すべきことを終えてから。
自らの不徳を恥じるのは、それからでも遅くはないだろう。


ふと、忍び寄る禍々しい気配。
振り向き、そちらに、ゆっくりと視線を向ける。
悪しき思念から生み出されたゴーストたち。
この場所には、まだ、それが数多く残っていた。
俺が為すことは、一つ。

――あれで、素直に帰る奴じゃあないからな……。

己を曲げず、納得がいくまで戦うだろう友のため。
円が帰るまで、一体でも多くゴーストの数を減らすこと。
戦いに疲れ果てても、なお、彼女が安らかに家路につくことが出来るように。


月の見えぬ空の下、それだけを祈り、誓い。
心の裡で、強く叫びながら。
俺は、眼前のゴーストへ向けて、握る拳を打ち込んだ。


【♪牙狼-SAVIOR IN THE DARK-/JAM Project】

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