自宅から歩いて数分のところに、よく足を運ぶ小さな花屋がある。
ただし、そこで俺が、生ある者に贈る花を買うことはあまりない。
選ぶのはほとんど、既に死したる家族に供える花だった。
我が家では、祖母への花を祖父が、両親への花を俺が、それぞれ買うのが常となっている。
――選ぶ、と言っても、俺はそれほど花に詳しいわけではない。
大抵は店員の勧めるまま、半ばお任せとしているのが現状だ。
この日も決して例外ではなく、見繕ってもらった花を束ねてもらう間、俺はぼんやりと店内を眺めていた。
色とりどりの華やかな花たちに、男が一人埋もれているのは滑稽だなと、いつも通りの感想が浮かぶ。
そんな中、俺の目にある花が留まった。
どこか誇らしげに、凛と咲く赤い花。
脳裏に、ふと5月のカレンダーを思い浮かべる。
そういえば、今日は――
「すみません。あれも、一輪お願いできますか」
会計を済ませ、仏花の束を受け取りながら、その花を指差す。
昔馴染みの店員は、快く追加注文に応じてくれた。
「……この色でいいの?」
「ええ」
帰宅後、俺は仏花を活けるかたわら、最後に買った花を一輪挿しにして、仏壇に置いた。
本来は、赤い花を贈るのが一般的なのだろう。
でも、母の仏前に供えるには、その色はあまりに眩しすぎるように思えて。
だから、俺はあえて、白を選んだ。
たとえ、その人生の幕を閉じた原因が、俺の中に存在していたのだとしても。
せめて今日だけは、形だけでも“息子”でありたい。
仏壇の片隅に、ひっそりと活けられた一輪のカーネーション。
風のない座敷の中、純白の花弁がそっと揺れた。
5月13日、母の日――