闇に溶けるように、雨が街を静かに濡らしていた。
依頼のメンバーと別れ、一人で帰路についた俺の服は、既にしっとりと重い。
降りしきる雨が、体の熱とともに奪っていったのだろうか。
戦いを終えた昂揚感も、幼い命を救った達成感も、今は無い。
湧き上がる感情は、内側からとめどなく溢れて、落ちていく。
熱く頬を流れる、その雫が。
己の涙と気づくまでに、かなりの時間を要した。
→リプレイ『カミさまを憎んだヒ』(やよい雛徒MS)
幼い娘と、その父親が二人で暮らす家。
そこに地縛霊が現れ、父親を惨殺した上、娘の命すら脅かしている。
ただちに現場へと急行し、ゴーストを撃破せよ。
依頼としては、別段珍しいものではない。
幾つか、特筆すべき点を挙げるならば。
父親の死が、運命予報の時点で既に避けられない事象であったこと。
そしてそれが、“母親を泣かせ、出て行かせた”父親への罰を、娘が願った結果、引き起こされたものであったこと。
娘の命を救うのは当然として、この事件が幼い心に与える影響を、少しでも軽くしてやりたい。
俺を含め、依頼を遂行すべく集った者たちの胸中にあった想いは、しかし最悪の形で裏切られることとなった
俺たちは、地縛霊を倒して幼い命を救った。
しかし、その心までは癒せなかった。
あの幼い娘は、自らを責めるだろうか。
それとも、己に課せられた運命を呪うだろうか。
思えば思うほど、今はやりきれない。
両親が亡くなったのは、俺がまだ赤ん坊の時だ。
表向きは交通事故として扱われているが、それがゴーストによって引き起こされたものであることを、俺は疑っていない。
或いは――それは、能力者の素質を持って生まれた俺こそが、両親のもとへ招き寄せた災いであるのかもしれなかった。
物心ついてから、俺には、涙を流した記憶がない。
両親のことを想っても、同じことだった。
肉親を喪えば悲しい。当たり前のことだ。
まして、両親が自分を庇って死んだとなれば。
それでも、俺は泣けなかったのだ。
ならば、この涙は何を意味するのだろう?
――君は獣などではないよ、渕埼。“ひと”だ。
この依頼に向かうより、かなり前に。
光庭で、ある男にかけられた言葉が、ふと頭をよぎる。
所詮、俺は戦うことしか出来ない獣だ。
人の心など、理解出来るはずもない。
そう、思ったこともある。しかし――
見上げれば、降りしきる雨が顔を叩く。
その雫に紛れて、涙はまだ、頬を伝い流れ続けていた。
たとえ、気休めに過ぎなくとも。
生きていれば、きっと光が差す日が来ることを信じたい。
だからこそ、今だけは己の感情に忠実であろうと思った。
救ったものと、救えなかったもの。その両方を、心に刻むために。
《プレイング》
方針に齟齬あれば全体優先
目的:
地縛霊撃破+少女救出
心情:
事件はまだ終わっていない
必ず、娘の命は救ってみせる
あの子の悲しみも、父親の無念も
考えるのはそれからだ
今は、為すべき事を為そう
方針:
即座に現場へ急行
玄関より1)→4)の順に突入
1)が地縛霊と少女の間に割り込み2)が少女保護
追って◆=地縛霊包囲◇=少女護衛
1)◆水澄+俺
2)◇烏兎沼+陰針+桃歌
3)◆姫野+高清水
4)◇風花+小林
※メンバー二人称は上記参照
戦闘:
少女と地縛霊の間に割り込み接敵、森羅呼吸法/以後必要時使用
地縛霊を牽制、護衛班が少女を保護するまで時間稼ぎ
「来い……!」
極力、混乱対策に少女との距離>味方との距離>地縛霊との距離を維持
少女に地縛霊を寄らせない/万一狙われた場合は身を盾に阻止
味方と声を掛け合い連携
紅蓮撃は乱発を避け、主に少女・重傷者が狙われた際の陽動やアシストに用いる
捕縛は利腕の宝剣でコードを切り払い対処
努めて冷静な判断を心がけ、混乱に付け込まれぬように
「初めてだ。目の前のゴーストを憎いと思ったのは……!」
幼い娘の眼前で行われた惨劇、怒りは深い
だからこそ、ここで我を忘れるわけにはいかない
事後:
強盗殺人事件として最低限偽装、少女は家の外へ運ぶ
導眠符で眠る少女の頭を撫で声かけ
「……ごめんな。パパはずっと、見守っているから」
どうか、父親を死に追いやったと悔やまぬように
現場から離れた後「民家から子供の悲鳴が聞こえた」と
公衆電話から匿名で警察に通報、撤収