“竜宮城”攻略戦――俺にとって、二度目の『戦争』。
この戦いで、学園は、以前の“土蜘蛛戦争”の倍にのぼる30名の死者を出した。
中に知人の名が含まれていなかった事を、手放しに喜ぶ気にはなれない。
友人・知人を辿っていけば、いずれは死者と関わりを持つ者に突き当たる。
去り逝く者、喪う者。
戦場において、この二者はどこまでも紙一重だ。
気を抜けば、たちまち自らがその仲間入りを果たすだろう。
いずれか一方か、あるいは両方か。
無事に戻って来た皆の顔を見られたことは、心から嬉しかった。
しかし、あれ以来。俺は時折、堪らなく恐ろしくなる。
「――まったく、あいつらは……片付けもロクに出来んのか」
庭に散乱した細かなゴミを拾い集め、遊び終えた花火の詰まったバケツを持ち上げる。
ぼやく俺の傍らでは、彩虹がやや困ったような微笑で、ホースの水を静かに撒いていた。
夏休みももう終わりだから、花火がしたいと主張したのは紅乃だ。
たまたま祖父が旅行で家を空けていたこともあり、庭を会場として提供することに同意したのだが、この惨状を見るに、多少の後悔をおぼえる。
用意した花火を消費し尽くした後、俺が少し席を外した隙に、紅乃は宣昭を連れてとっとと帰宅してしまっていたのだ。
ただ一人残された彩虹と、ようやく後片付けを終えて。
ポットから注がれた冷茶を片手に、縁側に並んで腰掛ける。
「楽しかったですわね……」
「……ああ」
それきり、言葉が途切れた。
果てなく静かな夜に、互いの存在だけが近い。
――ふと、“竜宮城”での一幕を思う。
第一の山場と目されていた“外殿”の攻略に向かった時のこと。
気付けば、それまで一緒に行動していたはずの、彩虹の姿が何処にも見当たらなくなっていた。
名を呼べど声は届かず、周囲はやがて戦闘の渦へと突入する。
この時――俺は理性に従い、目の前の戦いへと集中していた筈だ。
彩虹を捜すにしても、その前に自分が倒れては意味が無い。
頭では、充分すぎるくらいに理解している。
しかし。戻ってより、その光景を脳裏に描くたび。
真っ先に襲ってくるのは、貫くように、胸に迫り来る恐怖だった。
柔らかく、ひやりとした掌の感触が、俺の手にそっと触れる。
顔を向けた先、気遣わしげな彩虹の表情を認めて。
俺は、黙ったまま首を横に振り、重ねられた手を握った。
――喪うことは怖い。でも、それより、もっと……。
藍色の闇に染まった空。
そこに浮かぶ、少し欠けた月が、庭に淡い光を投げかける。
恐怖は、もう感じなかった。
【♪百年の満月/ZABADAK】