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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

〔承前〕

上品な紺のワンピースに身を包み、白い日傘を携えて。
俺の目の前に立つ姿は、紛れもなく、翳以外の何者でもない。
しかし、俺はまだ、その光景を現実のものと信じられずにいた。

「どうして……ここに?」
「お話が……」

呆然とした問いに、翳の声が遠慮がちに応える。
ようやく我に返った俺は、まず翳を家に招くことにした。
炎天下に、外で立ち話も何だし、考えようによっては好都合とも言える。
いずれ決着をつけるなら、その機会が早く訪れるに越したことはない。

タイミングの良いことに、祖父は所用で家を空けていた。
二人でゆっくり話をするには、絶好の環境だろう。

翳を座敷に通し、台所で冷茶の準備をしながら、少しずつ心を落ち着かせる。
彼女の用件が何であれ、決して驚くまい。
全てをありのままに受け止め、答えを出そう。そう、思った。


座敷に戻り、翳に冷茶を勧め、向かいの座布団に腰を下ろす。
切り出す言葉に迷ったまま、しばし沈黙だけが流れた。

「あの……」
「その……」

同時に何かを言いかけ、双方が揃って口を噤む。
気まずい雰囲気にばつの悪い思いを抱えつつ、俺は翳に話を促した。

「……すまない、先に話してくれ」
「はい」

姿勢を正し、俺にやや遠慮がちな視線を向ける。
俄かに張り詰める空気の中で、翳はゆっくりと口を開いていった。

「先日のゴーストタウンと、海で助けていただいたこと、
 ありがとうございました。……それから……」

そこで言葉を区切り、両手をついて深く頭を下げる。

「……申し訳ありませんでした」

謝ることはあれど、謝られることなど何もない。
軽い困惑をおぼえる俺をよそに、翳が続ける。

「渕埼さんの想いに気付いていながら無碍にした事、
 申し訳なかったと思っています。
 ですから、謝らせて下さい……」

分かってはいても、改めて聴くのは辛い一言でもあった。
必死に気を鎮め、伏せかけた視線を戻す。

「……どうか、顔を上げてくれ」

それから、大きく一呼吸を待ち。翳は、ようやく頭を上げた。
先程までとは一転して、決意の篭った瞳が、俺を見据える。

「私はもう迷いません」

思わず、膝の上で握る拳に力が入った。
恐れるな。もう目を逸らすまいと、決めたじゃないか。
しかし。身構えた俺の耳に飛び込んできたのは、まったく予想外の台詞だった。

「――私が律の思い出の中に生きるのではなくて、
 律を私の思い出にして生きようと決めました」

不意を突かれて、――え、と思う。
翳は今、何と言ったのだ……?

「私を、渕埼さんの隣に置いていただけないでしょうか」

今度は、はっきりと意味を伴って聴こえた。
音のない衝撃が、ゆるゆると胸に押し寄せる。

「私から律を無くすことは出来ません。
 けれど、それで良いのだと漸く思うことが出来ました……」

微かに震える声。
俯き、一つ一つ言葉を選びながら。彼女もまた、自身と戦っている。
それは、痛いほどに伝わってきた。

「もう、自分に嘘は、吐けません……」

どうして、もっと早く気付けなかったのだろう。
それが出来れば、ここまで傷つけることも、傷つくこともなかった。
改めて、己の不甲斐なさを呪う。

「――勝手な事を言っているのは承知の上です。
 でも……これが今の私の正直な気持ちです」

そこまで言い終えると、翳は返答を待つように押し黙った。
この腕を伸ばすか。それとも背を向けるか。
相反する二つの想いがせめぎ合い、心はなかなか一つの形に纏まらない。
口を開きかけては止め、必死に言葉を探し、膝の上の拳を再び強く握り締める。

「……すまない」

しばし、逡巡を繰り返し。
俺は、ようやくその一言を翳に告げた。


〔続く〕

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