一人で過ごす、音の無い夜。
カーテンが風に揺れる傍らで、俺は窓から空を見上げていた。
闇に浮かぶは、上弦の月――
ふと、室内に視線を戻し、花瓶に活けられた花束を見やる。
それは、俺が負傷で眠っていた間、友人が見舞いにと届けてくれたものだった。
添えられたカードに書かれた、柔らかく丁寧な文字。
無理はするなと、赤茶の髪を揺らして語る声が聞こえてくるようで。
心遣いに感謝するとともに、胸が痛む。
あの夜から、ちょうど5日が過ぎた。
カードの文面から読み取るに、友人には心配をかけたのだと思う。
傷はようやく癒えつつあり、家で過ごす分には殆ど支障はない。
回復を告げ、礼の言葉を伝えに出かけることだって、簡単なはずなのに。
――もう大丈夫だ、心配は要らない。ありがとう。
たったこれだけの台詞を言えるだけの自信が、今の俺にはなかった。
どんなに表情を取り繕おうと、その裏の綻びを見抜かれそうな気がして。
真に痛むのは身体ではなく、心だということも。
この数日、脳裏に焼き付けてきた翳の涙。
時間を置いてもなお、胸を貫き続ける拒絶の叫び。
俺はこれから何処へ向い、何処へ辿り着くのか。
何を為すべきで、何を為さざるべきなのか。
考えれば考えるほど、思考は迷宮へと嵌りこんでいく。
もう一度月を見上げ、先日の学園祭でのひとときを思った。
光の庭で奏でた音楽と、眩くも温かな木漏れ日と。
確かに共有していたはずの時間が、今はこんなにも遠い。
それはどこか、散りゆく花の儚さにも似ていた。
欠けた月が再び満ちても、失った安らぎはもう、戻らない……。