「――俺の言いたいことは、解っているな」
こくり、と僕は小さく頷いて。
寅ちゃんの視線を、真っ直ぐに受け止める。
「僕は……寅ちゃんとは違う、から」
あの戦場を戦い抜き、無事に帰ってきた寅ちゃん。
そんな強さは、僕にはない。
「ただ、“最後まで立っていた”というだけの話だ。
それも――かなりの僥倖だったと、俺は思っている」
そう言った後、寅ちゃんはゆっくりと目を伏せた。
「倒れていく者がいると知りながら、止められはしない。
俺の力など、その程度に過ぎん……」
――だから、お前の気持ちはわかる。
言葉の裏にある、寅ちゃんの想い。
それは、痛いほど伝わった。
「……僕は……戦う、よ」
自分でも驚くほど、その言葉は、はっきりと口をついて出て。
寅ちゃんは、そんな僕をじっと眺めた。
「――止めはせん。だが、犬死にするような真似だけは止せ」
思わず目を丸くする僕に構わず、寅ちゃんは続ける。
「勇気の使いどころを間違えるな。
命さえあれば、勝てはせずとも、決して負けはしないはずだ」
最初は、引き分けだって構わない。
倒れたって、また立ち上がることさえできれば。きっと、いつかは勝てる。
でも、悔しいからといって無茶をして。それで死んでしまったら、もう“次”はない。
だから、まずは立ち上がれるようになれ。
誰かを護りたいと、そう思うのなら。生きることを、諦めるな。
寅ちゃんが伝えたかったのは、たぶんそういうこと。
ありがとう、と言うと、寅ちゃんは「話は終わりだ。早く帰って休め」と、そっけなく答えて僕に背を向けた。
心配かけちゃって、ごめん。もう、大丈夫だから。
まだ、そうやって口には出せなかったけれど。
それでも、僕は、また前に歩ける気がしていた。
――あの悪夢は、きっと、もう、見ない。