耳に届くのは、くぐもって響く戦いの音。
目の前には、一面を埋め尽くす蜘蛛の群れ。
近くにいた仲間たちは、次々に取り囲まれて。
なす術もなく、一人ずつ倒されていく。
空ちゃんは、どこにいるんだろう?
戦いの中ではぐれて、今は姿さえ見えない。
隣にいた彩蟲ちゃんが、辰巳さん、と短く呼ぶ声が聞こえて。
同時に、太腿のあたりに熱い痛みが走って、僕は大きく膝をついた。
何度か立ち上がろうとしたはずだけど、その後のことはよく覚えていない。
暗くなる意識の中で、僕は空ちゃんの名前を必死になって叫んだ。
遠い視線の先に――血の海に沈む、空ちゃんを映して。
倒れた後、僕は空ちゃんたちと一緒にメディックの本陣に運び込まれ。
夕方が過ぎて、土蜘蛛との戦争が終わるまで。
意識が途切れるたび、僕はこの悪夢を繰り返し繰り返し見た。
伸ばした手は、いつだって届かなくて。
あの時、本当はもっと遠い場所にいたはずの空ちゃんは、僕の目の前で倒れていく。
この戦争では、多くの死傷者が出た。
死者だけで14人、重傷者の数は、改めて数える気にもならない。
ウムライで一緒だった3人の中で辛うじて無傷だったのは彩蟲ちゃんだけだったし、暇ツブの人たちも多くが怪我をした。
寅ちゃんが無事でいてくれたのは、凄く嬉しかったけれど。
改めて、戦いの厳しさを肌で感じる。
次の日、僕はウムライで“学園黙示録”に出場することにした。
メンバーは篁くんと、空ちゃんと、僕の3人。もちろん、全員が無傷じゃあない。
ただ立ってるのも辛いくらい、身体のあちこちが痛むけれど。
黙って横になって、あの悪夢の続きを見るのは嫌だった。
“能力者”になってもまだ、何もできない僕。
出会った“蟲”たちの力を、未だに使いこなすことができない僕。
戦いは、これからも続いていく。
怪我をしても、倒れても、戦わなくちゃいけない時が、きっと来る。
――だから、僕は無理を言って、チームに加えてもらったんだ。
でも、そんな僕たちを見て、寅ちゃんはひどく怒った。
「お前らは――自分の状態がわかってるのか!?」
珍しく、大きく声を張り上げて。最後に、僕の方を睨む。
怪我をした空ちゃんが無茶をするのを止めようともしないで、自分までチームに参加している。
そのことに、寅ちゃんが腹を立てているのは、よくわかった。
篁くんが間に入ってくれたおかげで、その場は一応治まったけれど。
寅ちゃんは、「勝手にしろ」と言い捨てた後、背中を向けて歩いていってしまった。
僕たちの試合は、そのすぐ後に始まり。
ほとんど何も出来ずに、僕は一撃で倒された。
傷ついた身体で勝てるほど、甘くはない。そんなことは、わかってた。
でも、戦わなくちゃいけないんだ。
弱くても、何でも、前に立たなくちゃ。
また、空ちゃんは倒れてしまう。今度こそ、あの夢が本当になってしまう。
そんなのは、嫌だ。
――強く、ならなきゃ……。
空ちゃんたちと別れて、一人で帰ろうとした時。
校門で僕を待っていたのは、寅ちゃんだった。
〔続く〕
【戦績】『傷だらけの彫像』予選2回戦目で敗退(不戦勝1回)/バトルカーニバル:0勝