“戦争”が終わり、学園には束の間の平穏が訪れていた。
数日後には、土蜘蛛たちが篭城を続ける“葛城山”への対処を決めなければいけないが、傷ついた者も数多くいるこの状況では、まずは身体を休めるのが先決だ。
戦うにしても、それ以外の道を選ぶにしても、態勢を整える必要がある。
俺は幸い、大きな怪我を免れていたため、翌日からの“学園黙示録”にも出場し、予選突破は果たせなかったものの、続くバトルカーニバルで4連勝を収めることができた。
チームメイトの力が大きかったとはいえ、優秀チームに名を連ねられたのは嬉しかったし、丁度良い気分転換にもなった。
紅乃や宣昭を始めとして、重傷の身をおして出場する者も多かったのが気にかかったが……それはまた、別の話だ。
――その日、俺は一人でキャンパスのあちらこちらを散策して回っていた。
喧騒から離れて、どこか静かなところで過ごしたくなったのだ。
辿り着いたのは、大きな樹が立ち、陽の光が溢れる庭。
どうやら結社の縄張りであるらしいが、大人しくしている分には文句は言われなさそうだ。
程なくして、腰を落ち着ける許可を取り付ける。
聞き覚えのある声がかけられたのは、その時だった。
「……このような所でお会いするなんて、偶然ですわね……」
顔を向けると、そこに、いつもの物憂げな微笑を浮かべる翳の姿。
どういう縁の巡り合わせか、彼女もまた、この庭の住人であったらしい。
戦争の重傷者リストに名がなかったことから、翳が無事であるとは知っていた。
しかし、あの公園での一件以来、顔を合わせていなかったこともあり、俺としては少々ばつの悪い思いを抱えざるを得ない。
そのまま、俺はどこかぎこちなく、彼女と言葉を交わすことになった。
改めて互いの無事を確かめ合い、しばらくはとりとめのない会話が続き。
最後になって、“葛城山”の殲滅作戦についての話題が出た。
殲滅作戦を支持するか、支持しないか。
指示する者が多ければ作戦は決行され、土蜘蛛との決戦が幕を開ける。
おそらく、戦いは激しいものになるだろう。当然、学園側も無傷では済まない。
俺は、この時点で作戦を支持しないことにほぼ意思を固めていた。
今更になって、土蜘蛛と共存が可能とは到底思えない。
だが、戦争が終わってまだ数日にしかならないこの時期に、急いで事を起こすのは危険が大き過ぎるのではないか……。
いずれ決着をつけるにしても、それはもう少し態勢を整えるべきだと、俺は考えていた。
ただ、それでも。
理性と感情、双方の面で、早期の殲滅を望む者はきっと多いだろう。
俺は翳に、殲滅作戦に向かうつもりか、と訊いた。
対する彼女は、今はそのつもりはありませんと、小さく首を横に振った。
その言葉に、心の中で密かに安堵して。
翳に暇を告げた後、俺は立ち上がって大樹の庭を後にした。
――今は、己の信じる道を。
【♪十二月の午後、河原で僕は夏の風景を思い出していた。/ZABADAK】
【戦績】『暇潰愚連隊』予選3回戦目で敗退/バトルカーニバル:4連勝