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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

―――――――――――――――――――――――――――
連作のSS(サイドストーリー)、全10話。
時間軸としては3月初旬を想定。

重めの内容で、若干のアンオフィ成分を含む可能性があるため
ご覧になる際はその旨をご了承下さいませ。

なお、作中にご登場頂いた他PL様のPC、NPCについては
PL様ご本人より事前に許可を頂いております。
―――――――――――――――――――――――――――


〔承前〕

【Truth ―決着】

二振りの黒い短刀が、鈍い音を立てて地面に突き刺さる。
俺は正面から渡瀬を見据えたまま、静かに無手の構えを取った。

一点に集中する精神が傷の痛みを遠ざけ、感覚を鋭く研ぎ澄ましていく。
猛り狂うばかりだった渡瀬に変化が訪れたのは、その時だった。

「“情智”……」

獣のようだった渡瀬の瞳に、武術家としての誇りが宿る。
膨れ上がった筋肉と、尖った爪はなりを潜め――漆黒の虎紋のみを纏った渡瀬は、俺と同じく無手で構えた。

真っ直ぐに向かい合う、紅と黒の虎紋。
互いのみに伝わる、声なき礼。

――“お願いします”

それが、真の幕開けだった。

先手で仕掛けたのは、やはり渡瀬だった。
無論、先と同じような力任せの体当たりなどではない。

骨や筋肉の隙間を的確に狙い澄ました、鋭い四本貫手。
歪に伸びた爪など無くても、鍛え抜かれた指先はそれ自体が武器だ。

反射的に左足で横に踏み込み、肘をすくい上げるように右腕を絡める。
渡瀬の右手首を左手で掴み、捻って押し倒す狙いだったが、それをやすやすと喰らうような男ではない。右腕を素早く曲げ、逆にこちらの動きを封じにかかった。

鍔迫り合いのような数瞬の後、互いに飛び退り間合いを取る。
こちらが低く踏み込んで正拳を放てば、腕が伸びた一瞬に渡瀬の指先が絡み、引き寄せられたところで腰から投げられる。
ギリギリのところで指を振りほどき、自分から跳んで受身を取ることでダメージを最小限に抑えた。

渡瀬の口元に、薄い笑みが浮かぶ。
それは、拮抗した闘いの中でのみ得られる、充実の笑みだった。
強き者と競い合う喜び。熱い血が滾る、この感覚。
共有する想いが、自然と、俺をも微笑ませた。

互いの間に、一切の言葉はなく。
打ち合い、突き、払い、掴み、投げ。
万言でも語りきれぬほど、それぞれの拳を交わして。
全身全霊をもって、俺達は戦い続けた。

動から静へ。静から動へ。
全ての決着は、ほんの一瞬。

左の側面から放たれた渡瀬の突きを、胸元から円を描くように外側に払う。
すかさず腕を取って引き、ガラ空きになった渡瀬の顎を目掛けて。
俺は、指の関節を獣の爪の如く曲げた“虎爪”の掌底を渾身の力で打ち込んだ。

一瞬、渡瀬はそれでも踏み止まろうとしたが――いかに鍛えた者でも、顎から頭まで直に伝わった衝撃は殺せない。
脳を揺さぶられて砕けた両膝は、もはや彼の全身を支えることは出来ず。
渡瀬は、ゆっくりと地に崩れ落ちた。

張り詰めていた緊張の糸が切れ、ひとつ、大きく息を吐く。
呼吸を整えた後、俺は地面に刺さった二振りの宝剣を抜き、倒れた渡瀬の元に屈みこんだ。
両の腕で頭と体を支えるようにして、彼を抱え起こす。

「――渡瀬さん」
「情智……いや、寅靖……か」

向けられた瞳と声は、俺が知る昔の渡瀬に戻っていた。
憑き物が落ちたかのような穏やかな顔で、彼は小さく笑う。

「俺の、負けだ」
「貴方が、本気で私を殺すつもりで戦っていれば――結果は違っていたはずです」

それは謙遜ではなく、俺の本心からの言葉だった。
事実、渡瀬が俺を殺すつもりでいれば、チャンスはいくらでもあったのだ。もし彼が、その気であったなら。
しかし、渡瀬は首をゆっくり横に振った。

「いや……完敗さ。過去に縛られ、己を見失った俺に勝てる道理はない……」

自嘲気味な口調の中にも、己に対し妥協を許さず、厳しくあろうという姿勢が滲む。
尊敬する彼が幾度となく繰り返してきた言葉を、俺は厳かに口にした。

「相手に勝つ前に己に克て。迷いを抱いていては勝てない――そう、私に教えたのは貴方でしたね」
「負うた子に教えられるとは……このことだな」

俺が「いつまでも子供ではありませんよ。年を取らないのは貴方くらいです」と冗談めかして返すと、渡瀬は「違いない」と言って笑った。

このまま、他愛のない話をしばらく続けたい気もしたが、そういうわけにもいかない。
表情をわずかに引き締め、出来る限りさりげなく“終わり”を切り出す。

「――言い残すことはありますか」
「無い。全て、語り尽くした」

答えは、それだけで充分だった。
渡瀬に大きく頷いた後、俺は精一杯笑ってみせた。

「そろそろ、前座は退場しますよ」
「今更、あいつに合わせる顔も無いがな……」
「それは困ります。伯父も今頃、待ちくたびれているでしょうから」

ばつの悪そうな表情を浮べる渡瀬に、確信をこめて言葉を返す。
俺はただの代役に過ぎない。求め続けたもう一人の主役は、彼がこれから辿り着く場所にいる。
そして、きっと――彼の“家族”も。

「……待たせたのは俺の方、か」

渡瀬は小さく息をつき、誰にともなく呟いた。
それを聞き届けた後、俺は全身の『気』を練り上げ、己の指先へとそれを集中させた。

「また、いずれお会いしましょう――“先生”」
「出来るだけ、ゆっくり来いよ。そして……」

――いつか、その時が来たら。俺のように迷うんじゃないぞ。

最後にそう言って、渡瀬は静かに目を閉じる。
俺の指先が彼の左胸に触れ――その仮初の命に、終焉を告げた。

〔続く〕

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