※エイプリルフールの仮想設定における連作SSです。
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〔承前〕
【Waking ―目覚め】
目が覚めてみると、いつも通りの起床時間だった。
寝起きの良い俺にしては珍しく、随分と長くまどろんでいた感覚がある。
その間ずっと、目覚まし時計の今どき古風なベルを聞いていた気がするのだが……実際は、数分も経過していなかったらしい。
眠っている間に、夢を見ていたようだ。
長い、長い夢――。
夢の大半が、そうであるように。
今宵の夢もまた、目覚めた瞬間に記憶の扉を閉ざしてしまい、内容は殆ど覚えていない。
ただ、感情だけが微かに残っていた。
そこには幸福があり、絶望があり、希望があり。
喜びがあり、怒りがあり、悲しみがあった。
本当に、あれは一夜の夢に過ぎなかったのだろうか。
何故だか、胸にぽっかりと穴が空いてしまったようで。
俺はしばらく、ベッドに蹲ったまま動くことが出来なかった。
どんな夢も、目覚めてしまえば消え失せる。
背筋が凍る悪夢も。天にも昇るような幸福な夢も。
朝になって瞼を開けば、全てが無かったことになってしまう。
全ては夢。平穏な現実では考えられない程の、波乱に満ちた夢だ。
目覚めた今は、何でもない日常に戻るだけ。
今日も忙しくなるはずだ。もう、起きて準備しなければいけないのに。
それなのに――どうして、自分は泣いているのだろう。
夢を見て泣くだなんて、子供でもあるまいし。
いい歳した男が、みっともない……。
理性の抗議を無視して、言葉にならない感情が意識を支配する。
次から次に、涙が溢れて止まらなかった。
失ったのは一夜の夢。ただの、夢に過ぎないのに。
長い夢は終わり、新しい朝が始まった――。