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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

エイプリルフールの仮想設定における連作SSです。
 詳細は
こちら

〔承前〕

【Fly to the moon ―最期の願い】

俺の傍に在ることを、お前が望むのなら。
俺の向かうその場所に、必ずお前を連れて行く。

お前が、孤独を厭うのなら。
俺はお前の傍に在って、手を繋いでいよう。
俺が見るのと同じ景色を、お前にも見せよう。
いつか、この命が尽きる日まで。


――それは、遠い日に交わした誓い。



初めて出会った時、兎耳の少女はひどく寂しそうで。
放っておいたら、寂しさのあまり消えてしまう気がした。

――おいで。

差し伸べた手を、少女の手が遠慮がちに取る。
心細さに震える小さな手を、そっと、包むように握った。

――大丈夫だよ。俺で良ければ、ずっと傍に居るから。

あれは、とても月の綺麗な夜で。
俺はその少女に“ユエ”と名付けた。


遠い、遠い日のお話――。

目を開けると、今にも泣きそうなユエの顔があった。

「――ユ、エ……?」

掠れた声を搾り出せば、口の端からは血が零れ落ちる。
崩れかけた廃工場の中にしては、随分と明るい。
ユエの頭越しに、よく晴れた空の色を見た時、俺はこの相棒の手で救い出された事を知った。

「……わざわざ、助けて、くれた……の、か」

一言ごとに、血が喉の奥でごぼごぼと音を立てる。
喋るなと言いたげに、ユエは激しく首を横に振った。

でも、それは残念ながら無用の気遣いだ。
この傷では、どう考えても助かりようがない。

「ごめん、な。……お前を、巻き込んで、しまって」

俺が死ねば、絆を結んだユエも消えてしまうだろう。
そうと知りつつも、俺は相棒をここに連れて来てしまった。
一つは、改変のためにユエの力が必要であったことも、勿論ある。
だが、最大の理由は別のところにあった。

一人にしたくなかった。
一人になりたくなかった。
離れたくなかった。

命尽きるまで一緒にいると、俺は誓ったのだから。
それを、裏切りたくなかった。

だが、その選択は本当に正しかったのかと――今になって思う。

彼女を失ってから、彼女の死を否定することが俺の全てだった。
過去を改変することで、彼女を何とか生かそうと願った。

最初は、ただ彼女に会いたい一心だった。
そのために、何を犠牲にしてもいいと思った。

そして、俺は道を踏み外し、数多の命を手にかけた。
彼女の命と天秤にかけた、他人の命を一つ一つ奪うごとに。
俺の心は、少しずつ、確実に壊れていたのだろう。

意識の水面下で、俺は静かに狂っていった。
彼女を生かそうと人を殺めては、罪の意識に激しく苛まれた。
やがて、死をもって償うしかないと思いつめた。

いつしか、俺の願いは変わっていった。
彼女を救い、その後に俺自身をこの世から消す。
俺が殺めた命を、俺の命で精算する。
それが最善の道だと、信じて疑わなかった。

――だが、実際はどうだ?

恋人である俺の死は、彼女を悲しませ。
主である俺の死は、ユエを消滅に追い込み。
父となるはずの俺の死は、血を分けた子を存在ごと葬り。

皆、一人になってしまう。
俺の選択は、誰にも幸せをもたらさない。
誰も、幸せになれないではないか。

死の間際、思い出したかのように正気を取り戻し。
取り返しのつかない今になって、自分の選択を激しく悔いるなんて。
俺は、救いようのない愚か者だ――。

「……消え、る、のは……俺、だけで……いい、のに……な」

動かぬ右手の代わりに、左手をユエの頬に添えて撫でる。
何か言おうとしたが、もう声にならなかった。
でも、それで良いのかもしれない。

ありがとう。すまない。さようなら。
どの言葉も却って白々しくて、俺達の絆にそぐわない気がするから。

視界が急速に暗くなる。終わりの時が、次第に近付いているようだ。
既に光を失った俺の目には、ユエの表情は見えなかったけれど。
きっと泣いているのだろうと、そう思った。


俺が死んだ後、消滅したユエはどうなる?
詠唱銀と思念に還元されてしまうのだろうか。
それとも、どこかで再び少女の姿をとって、主を待つのだろうか。

どちらにしても、一人は嫌だろうな、と思う。

俺が見捨てたあの子は、生まれてくることも叶わないまま、母親から引き離されて、一人で星海の畔を漂っている。
辛いも哀しいも俺には意味を為さぬ事――そう、あの子は言った。

考えてみれば、当然のことかもしれない。
そんな思いを知る前に、あの子は舟に乗せられてしまったのだから。
あの子は、ずっと一人だったのだから。
そして、これからも一人きりで、永劫の時を過ごしていくのだから――。


意識が、ゆっくりと闇に落ちていく。
痛みはもう、感じなかった。



 最期に、もう一つだけ。

 願うことが許されるのなら。


 どうか、ユエとあの子を。

 一人のままに、しないで欲しい。


 人の寿命に、力が宿るなら。

 俺が持っていた全てを、差し出してもいい。


 だから、どうか――。



その願いは、聞き届けられたのかどうか。

どこか遠くから、ベルの音が聞こえた。


それは、きっと開幕のベル。

死が、幕を開ける合図――。

〔続く〕

 

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