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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

〔承前〕

痛みに目を覚ますと、うっすらと見慣れた天井が見えた。
夏だというのに、全身に冷たい汗をかいている。
心臓の鼓動が、激しく波を打っていた。

徐々に覚醒する意識が、理性と記憶を呼び戻す。
枕元に目を向けると、そこには依頼の報告書の束。
妖獣の一撃に倒され、俺が重傷を負ったのは昨日のことだ。

目覚めた今は、嫌というほどわかる。
何故、あのような悪夢を見たのか。
その理由も、由来も。

痛みを堪えるうち、無意識に左頬の傷を撫ぜている自分に気付く。
先の戦いで負った傷では、無い。

家の外では、しきりに雨が降り続いていた。


リプレイ『キマイラを打ち倒せ!』(屍衰MS)

山奥の、打ち捨てられた墓場で発見された強力な残留思念。
そこから実体化させたゴースト達を殲滅するのが、此度の任務だった。

獅子の頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ異形の怪物。
神話に魔神の娘として登場する『キマイラ』と同じ姿を持つ妖獣が、俺達の倒すべき相手である。

この怪物の名は、同一個体内に異なった遺伝情報を持つ生物(キメラ)をも差す。
ならば、蜘蛛の脚を持つ虎として、異形同士の共喰いといこう。

そう嘯き、キマイラに挑んだ結果は。
俺個人に限るならば、惨敗としか言いようが無い。

驕っていたのかもしれない。
どんな敵であろうと、一時的に食い止める事は出来る筈だと。
しかし、結果はこの通りだ。
ロクに防御すら出来ずに、ものの数撃で血の海に沈められた。

重ねた経験も、小手先の技術も、圧倒的な力の前には無力に等しい。
改めて、俺はそれを思い知らされた。


ひとつ、大きく息をつく。

この戦いでは俺を含め4名の重傷者を出したが、最終的に全てのゴーストは駆逐され、任務は成功している。
少し離れて出現した地縛霊4体を相手にしていたルル達が駆けつけ、総力をもって打ち破ったのだ。

能力者として、この戦いは勝利と言えるだろう。
俺個人の敗北など、その視点で見れば物の数ではない。
何より、傷は負っても全員が生きて帰ったのだから。

――それでも、俺は思う。

この身で、あとたった一撃でも攻撃を引き受けられたなら。
ほんの数秒でも、盾となり時間を稼ぐことが出来たなら。


ゆっくりと上体を起こすと、軽く眩暈がした。
消毒薬と血の臭いが入り混じって、鼻腔を刺激する。

ルルの話では、俺は完全に気を失い、自らの血の海に沈んでいたらしい。
ひどく寒く感じたのは、戦場に降っていた雨のせいではなく。
体内から流れた血が、そのまま俺の身体を浸して体温を奪っていたからだ。

――動かないで下さい。本当に、酷い状態なんですから。

親友・百鬼祐平の従兄弟であり、継承者でもある百鬼ルル。
この依頼にともに赴いた彼は、親友と同じ色の瞳で、俺に気遣わしげな視線を向けていた。

負担をかけたな、と思う。
不甲斐ない姿を見せたな、とも思う。

無論、そんな事を当のルルは考えまい。
出会ったのは祐平の縁とはいえ、今では個人として、それが分かる程度の付き合いはある。
だからこそ、いずれ埋め合わせはしようと思った。


波に遊ばれるように、思考が浮かんでは消えてゆく。
体力を消耗していると、考えも一箇所に纏まらないものか。
ふと、血の臭いが強くなった。軽い吐き気がこみ上げる。

強い血の臭い。
俺をしっかりと抱く両腕。
暗闇の中の獣の殺気。
全身を浸す血の海。
降りしきる雨。

あの夢の断片が意味することを、俺は既に知っている。
覚えているはずも無い記憶。
そして、忘れられるはずも無い記憶。

今から19年前。一晩中、強い雨が降り続いた夜。
赤ん坊だった俺と両親が乗った車は、不運にも妖獣に襲われた。
俺は母親に庇われ、その命と引き換えに一人助かったのだ。
血塗れた骸と化した母親の両腕に、しっかりと抱かれて。

あの夢が、今回の出来事をきっかけに呼び起こされた俺の遠い記憶なのか、はたまた思い込みで再構成された現在の記憶なのかは、わからない。


いずれにしても、それは苦い記憶だった。


無意識に身じろぎした瞬間、激しい痛みが襲う。
ようやく出血は止まったものの、獣の牙による傷は深く、一向に塞がる気配はない。

息が詰まるほどの激痛に、耐えるでもなく身を任せる。
せめて、この痛みは戒めに刻み込もうと思った。

これからも戦いは続く。
圧倒的な強敵を前に打ちのめされる事も、幾度となくある筈だ。
その度に過去に囚われるようでは、話にならない。

大切なのは、今だ。
守りたいのも、今だ。
零れてしまえば、取り戻せない。

前を、見なければ。
過去の闇が、どんなに深くとも。
俺は、戦い続けると誓ったのだから――


浮かんでは消えてゆく思考の波の中。
痛みが熱を持ち、全身を焼くような錯覚を再び感じた。

〔続く〕

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