間近には、獰猛な獣の殺気。
姿こそ見えずとも、それは闇の中にはっきりと輪郭を形どっていた。
動かなくては。
あれを打ち破らない限り、人が死ぬ。
また、近しい人が、死ぬ。
殺気の源へ向け、上体を起こそうとする。
しかし、上体はおろか、指一本さえも動かない。
誰かの両腕が、しっかりと俺を抱えている。
――離して下さい。早く、ここから逃げて。
必死に訴えても、それは声にならない。
殺気は、もうすぐそこまで迫っている。
早く逃げて。腕を離して。
でなければ、また。
“また、あなたは殺されてしまう”
衝撃。
殺気が、俺達を呑み込む。
痛みはまだ、感じない。
目眩と、吐き気で意識が遠のく。
どれだけの時間が過ぎただろう。
気がつくと、殺気は既に去っていた。
雨に打たれたのか、ひどく濡れて寒い。
誰かの両腕は、まだ俺を支えていた。
しかし、それは既に、温もりを失いつつある。
ぬるりとした感触。
強く、血の臭いがした。
俺の体を浸す、血の海。
――ああ。
“また”俺は守れなかった。
左の頬が痛み、次第に勢いを増して全身へと広がる。
襲いくる激痛は、やがて灼熱となり俺を焼いた。
〔続く〕