重く空気の澱んだ、薄暗い地下。
最後の一体を倒してもなお、戦いは終わらない。
長年封じられた死の臭いと、怨嗟の呻き。
悪しき気配が強まり、逆巻く怨念が新たなゴーストと化してゆく。
視線を向けた先、巨体に黄金の炎を纏った地縛霊の姿が見えた。
「新手――いや、真打登場ってとこだな。ハッ、上等だ」
たった今、リビングデッドを屠ったばかりの武器を構え、剛一が不敵に笑む。
この男の声は、如何なる逆境でも力に満ちている。
光の届かない地下においても、それは些かも揺らがなかった。
打ち捨てられた地下街の最深部、核シェルター実験場。
そこは、居住実験という名目で閉じ込められた人々の巨大な棺でもあった。
理不尽な運命に弄ばれた挙句、死に追いやられた多くの命。
閉ざされた暗闇の恐怖、絶え間なく襲う餓えと渇き、ゆっくりと確実に迫る死の気配――それらが人々の精神にどれだけの狂気をもたらしたか、想像するには余りある。
彼らはゴーストとして、現在に至るまでなお苦しみ続けているのだ。
今に限らず、あらゆるゴーストに対し、取るべき手段は唯一つ。
二度目の死を以って、本来在るべき状態へと還すのみ。
生前、どのような存在であったのかは関係がない。
老若男女、善悪を問わず、切り裂き、砕く。
元は生きた命だと思えば、その行為はとうてい愉快なものでなく。
しかし躊躇えば、自分ばかりか仲間に危険が及ぶ。
戦うこと、それが能力者の――俺の使命だ。
たとえ、その行動が突き詰めればただの殺戮に過ぎなくとも。
俺に出来ることは、これしか無い。
しつこく毒を撒き散らすリビングデッドに肉迫し、紅蓮撃を叩き込む。
敵が炎に包まれ崩れ落ちると同時に、封術の痛みが全身を覆った。
この身に宿した土蜘蛛の力が強力であればこそ、その反動も大きい。
使いどころを誤れば、それはそのまま、大きな隙となる。
残る敵を視認し、間合いを整えようとしたその時。
凄まじい熱風とともに、横合いから黄金の地縛霊が痛烈な一撃を加えてきた。
咄嗟の防御も間に合わず、炎を纏った鎚が肩口にめり込む。
骨の軋む鈍い音と、表皮を突き破り肉の潰れる感触。
「……っ!!」
痛みを自覚するより先に、名状し難い怒りが襲う。
開いた傷から迸る鮮血よりも、その勢いは激しく狂おしい。
鼓動が波を打ち、全身の血液が沸騰した。
――死者たちの遺した想いが、声となって脳裏に響く。
何故。どうして。
俺は。私は。
彼は。彼女は。あの人は。
『こんな暗闇の中で、無残に死ななければならなかった?』
ああ、憎い。痛い。苦しい。
永劫に救われぬのなら、いっそ。
何もかも、残らず滅びてしまえ。
「寅靖……!」
この時、友の呼ぶ声は俺の耳には届かず。
ただ激情に流されるまま、俺は黄金の地縛霊へと拳を突き入れていた。
虚空へ放つは、憤怒の咆哮――