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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

12月16日、午後5時過ぎ。
戦況は、激化の一途を辿っていた。

既に重傷者は多数。死者の数も、決してゼロではない。
視線の先には、闇を切り抜いたかのような影の城。
そして、それを喰らい尽くす勢いで、禍々しい咆哮を上げる巨大な魔狼の姿。
あの魔狼――“フェンリル”こそ、この戦争における最終目標だ。

能力者たちをもってしても、完全体のフェンリルを相手に太刀打ちはできない。
まずは、その力の源たる、3つの“魔狼儀式”を破壊せねばならず、主力部隊がそこを攻略している間、最低限の戦力でフェンリルを抑え続けるのが、俺たち牽制部隊の任務だった。


固く拳を握り、戦場へと一歩足を進める。
さっきまで、ともに戦っていた雨姫兎の姿は、今はここにない。
それでも、戦わねばならなかった。
あと、少しだけ時間を稼ぎ、もう1つ“魔狼儀式”が落ちるまで。

「一人で行く気か?」

背後からかけられた声に、足を止めて振り返る。
左目の下に刀傷のある、長身の男――榊の姿が、そこにあった。

「――まさか。俺はそこまで命知らずじゃあない」

内心で苦笑しつつも、肩を竦めて応じる。
視線を走らせた先、榊の傍らに、パートナーの姿は見当たらなかった。

「どうやら、同じ状況みたいだな」

互いに、今は一人。
自分の隣にあるべき者が戦いに倒れる様を、この目で見てきた。

「――奴らを潰しに行かないか? 相棒」
「ああ、行こう」

頷き、視線を移した先で、なおも荒れ狂うフェンリルの姿を認める。
これ以上、人狼たちの好きにさせはしない。

「……存分に、思い知らせてやるさ」

静かな怒りとともに、俺の唇から発せられた呟き。
それは、決意を篭めた反撃の狼煙だった。

“人狼”が“メガリス”の力で召還した破壊の化身・フェンリル。
それを止めるべく、銀誓館の能力者たちは、一時的に“吸血鬼”側の救援要請に応える形となった。
別に、“吸血鬼”の肩を持つわけではない。
“世界結界”と、戦場となった六甲アイランド周辺に住む、一般人達への影響を考えれば、どうしても無視できなかったからだ。

先日、学園と接触した“人狼騎士”の一人が、『吸血鬼と学園、二つの組織を同時に相手にするだけの戦力がある』と豪語した通り、組織としての“人狼”は強い。
数において、“人狼”たちは圧倒的な優位を誇っており、また、戦場においての連携も抜かりがない。

こちらが一点突破を仕掛ければ、相手も戦力を集中させて壁を厚くする。
寡兵に対してはきっかり八倍の数をもってこれを封殺し、余剰の戦力はより激しい戦況のエリアの増援に送る。
隙のない戦略に学園側は苦戦し、“生命賛歌”の効果をもってしても、治癒しきれない傷を負って前線を退くものが後を絶たなかった。

一時間半ごとに繰り返される、戦場の定時連絡。
知った顔が、次々と重傷者のリストに加わる中で。

朝からずっと、俺と肩を並べて戦ってきた雨姫兎もまた。
幾度目かのフェンリル牽制に赴いた先、敵の銃弾の直撃を受けて倒れた。

雨姫兎を抱えて、救護班へと一時撤退を果たすまでの間。
俺は、かなり動揺していたに違いない。

二人でタッグを組み、牽制部隊に志願しようと、雨姫兎へ話を持ちかけたのが俺なら。
互いの背中を護ると言いながら、一人だけそれを果たせなかったのも俺だ。

雨姫兎は倒れ、俺はまだ立っている。
あいつは約束通り、俺の背中を護り抜いたというのに。
どうして俺は、隣に居ながら、護ることが出来なかった?

戦場において、個人の力が及ぼす影響など、たかだか知れている。
傲慢な考えであるとは、充分に理解していたつもりでも。
たった一人、護り切ることすら果たせなかった己の無力に対し、怒りを感じずにはいられない。

救護班に雨姫兎を預け、その安全を確保して。
一人、戦いに戻ろうと踵を返した時、背中越しに雨姫兎の声が聞こえた。

「寅兄、ぜってぇー無事で帰ってきてな……!」

この時。
自分がどんな顔をしていたのか、俺は覚えていない。
ただ、心が大きく揺さぶられるのを、強く、感じていたように思う。


フェンリルを止めるため、仲間達の楯として動く。
その、自らの役割に対して、今更恐れを感じたわけではない。
覚悟は、とうに済ませている。

――むしろ、その逆。

命さえ落とさなければ、この身はどれだけ血を流そうと構わない。
俺の傷は増えても、代わりに誰かの傷が減らせるなら。
大切なものが傷つき倒れる様を、目の当たりにせずに済むなら。

倒れるのは、俺だけでいい。
心のどこかで、常に、そう思い続けていた。

雨姫兎の言葉に、ようやく気付く。
俺が、皆の無事を祈るように、俺もまた、祈られているのだと。

ずっと前から、傍らで聞こえていたはずの声。
それは、自分の名を呼び続けていたのだと。

「ありがとう。――行って来る」

護る意志に加わる、もう一つの決意を胸に。
応える声には、既に迷いはない。


今もなお、戦い続ける者たちの無事を祈り。
自らもまた、帰って来る事を誓って。

俺は再び、あの戦場へと向かっていった。


【♪Brother in Faith/JAM Project】

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