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六甲アイランドを舞台とした、“人狼”と“吸血鬼”の戦い。
“人狼”が召還した“フェンリル”は学園の能力者たちによってとうとう倒され、“吸血鬼”の拠点たる“影の城”は健在なまま、一応の決着を見た。
捕虜となった“人狼”たちの扱い、世界結界に影響するだろう“影の城”の今後……考えなければいけないことは多いが、まずは先にやることがある。
この戦争で、光庭からは雨姫兎や蓬琳を始めとして多くの重傷者を出し、他にも、親しい者・見知った者が幾人もそこに加わった。
本陣に戻り、まずは重傷者たちを順に見舞い、次いで、大きな怪我無く戻って来た者たちの無事を確かめる。
学園側から出た戦死者のリストに、俺の知った者が名を連ねることはなかった。
戦後処理が一段落した後、学園の計らいもあり、動く余力のある者たちは連れ立って神戸ルミナリエに足を運ぶことになった。
震災の復興と慰霊を目的に始まったとされる、光の祭典。
初日の夜に彩虹と二人で訪れてから、ここに来るのは二度目となる。
この日、俺たち牽制部隊とは別のルートを進軍していた彩虹は、無事に帰還を果たしていた。
長い戦いを終えて再会してから、お互いに語る言葉も少なく。
ただ、離れていた時間の空白を埋めるように、そっと、並んで歩く。
とりどりの光に照らされた、彩虹の横顔。
それは、先日に同じ場所で見た時より、若干、白く見えた。
→リプレイ『光の紀元~光が灯るその瞬間~』(櫻正宗MS)
同行者たちと別れ、二人きりになり。
祭典の喧騒も遠のいた頃、ずっと俯きがちに口を閉ざしていた彩虹が、呟くように唇を開いた。
「無理はなさらないで下さいと、あれだけ、言いましたのに」
消え入るような声で、視線を俺の首筋へと移す。
日中の戦闘で、“人狼”の銃撃が皮膚の表面を掠めていった痕。
まさに首の皮一枚、致命傷と紙一重の傷が、そこには刻まれているはずだった。
「まさか、自分だけは大丈夫だとでも……?」
手を伸ばし、首の傷に掌を重ねるようにして、揺れる銀の瞳を向ける。
「――絶対に私の所へ帰って来てだなんて、言いません。
怪我を恐れて逃げろとも、言いませんわ。でも……!」
俺と行動をともにしていた雨姫兎が重傷を負ったことは、戦場の定時連絡で、彩虹の耳にも入っていたことだろう。
“弟”が倒れたその時、俺が何を思い、何を感じたのか。
俺の性格を知悉している彩虹にとって、想像するのは容易かったに違いない。
事実、俺はいたく動揺し、一度は怒りに我を失いかけた。
あの時、無事に帰って来いという、雨姫兎の一言がなかったら。
自分の身を一切顧みずに、敵陣深くへ特攻を仕掛けていたかもしれなかった。
「……ごめんなさい」
勢いを失って震える声と、首筋をなぞる冷たい掌の感触が教える。
今まで俺に向けられてきた、想いの深さと重さを。
そして、それを知らず裏切り続けていた、自らの身勝手さを。
「すまない……俺は、自分の身に無頓着に過ぎたらしい」
「いえ……私も、心配しすぎなのですわ……」
首を横に振りつつ、両腕で彩虹を抱き寄せる。
向けられる想いの全てを、今度こそ、ありのまま受け止められるように。
「無事で居てくれて……良かった。
帰って来ることができて、本当に……良かった……」
声を大にして、伝えたいことがある。
銃と剣が支配する戦場で、俺の背を護り抜いた雨姫兎へ。
自らも戦いに身を置きながら、俺の無事を祈り続けた彩虹へ。
最後までともに立ち、死力を尽くした戦友たちへ。
傷つきながらも、帰って来てくれた者たちへ。
俺の帰りを、笑顔で迎えてくれた者たちへ。
――ありがとう。
【♪ヴォイス/ポルノグラフィティ】