“人狼”と“吸血鬼”。
欧州を本拠地とし、最近になって日本を訪れた二つの“来訪者”勢力。
この両者の対立が激化し、とうとう、それが大規模な戦争に発展するに至って。
“世界結界”の保護という目的のもと、学園はこの戦いへの介入を決めた。
決戦は、次の日曜日。
戦場での役割を分担する各ポジションの話し合いも、既に大詰めに近い。
慌しく準備を進める傍ら、俺は、ちょっとした時間を見つけては、先日の依頼の報告書を幾度となく読み返していた。
くるりと回る傘と、流れ出す血の赤。
揺らめく影絵を映す障子と、腕に巻かれた包帯の白。
――大丈夫。心配しないで、な?
二色に彩られた記憶は、依頼の翌日、包帯の腕を笑って振ってみせた神凪の声で締めくくられ。
その様子を、思い出すたび。
気の利いた言葉ひとつ返せなかった自分を、もどかしく思う。
→リプレイ『影絵織烏 暗』(ココロMS)
赤い傘を携えたそのリリスは、“カナン”と自らを名乗っていた。
彼女が、生前どのような人生を送っていたか。
何故、ゴーストと化してしまったのか。
一切は、謎に包まれている。
――哀しい子供。
カナンに向けて、そう、神凪は口にした。
以前の依頼で遭遇し、一度、剣を交えた因縁が、両者にはある。
俺がカナンの存在を知り、この依頼に志願する決意を固めたのも、その時の報告書を目にしたがゆえだった。
何者も信じようとせず、互いに求め合う人々の心こそを憎み。
“絆”とは何かと、問い続けていた娘。
いかに幼い外見をしていようと、相手はゴースト。
しかも、能力者を好んで喰らうという、狡猾な“リリス”だ。
その裡にあるものを、理解出来るなどと考えたわけでは、決してない。
それでも、俺は思い出さずにはいられなかった。
一切を拒み、盲目的に自らの世界に閉じ篭っていた子供。
壊すこと、失うことを恐れるあまり、何にも触れられなくなった両手。
孤独という虚無の闇に蹲って過ごしていた、かつての俺自身の姿を。
戦いの末に敗れ、消滅に瀕したカナンが、その身を抱き上げた神凪の腕に力の限り噛み付く様を、俺はただ、黙って眺めていた。
止めるべきでないと感じたのは、おそらく理屈からではなく。
最後まで見届けることで、答えを、探したかったのかもしれなかった。
誰のための回答であったのか……それは、俺にもわからない。
ゴースト達との、戦いを終えて。
カナンと、彼女が従えていた地縛霊に捕らわれていた3人の子供は、無事に救出することができた。
彼らを家の近くまで送り届け、次いで、依頼のメンバー達も解散となった後。
別れ際になって、俺は、ようやく神凪に向けて声をかけた。
「今は、護り抜いたことに胸を張ろう」
全ての想いを篭めるには、あまりに短い言葉であったけれど。
この友人に酬いるため、どうしても伝えておきたかった一言でもあった。
「ありがとう。……お疲れ様」
――俺にとって、“絆”とは。
ここまでに巡り合えた、かけがえのない者達の、存在そのもの。
愛する者。兄弟。家族。友人達。
そのために、俺は全てを懸けて戦おう。
拳は“鎗”に、この身は“楯”に――護るものが、ある限り。
《プレイング》
※全ての共通事項に従う/齟齬は共通優先
目的:
子供3名救出+地縛霊3体殲滅(カナン撃破<子供救出)
心情:
昔の俺は人を拒み、心閉ざして生きてきた
だから、先の報告書で見たカナンの言葉が気にかかる
巡り合えた者達との絆、それが今の俺の全て
楯となり、護ってみせる
準備:
突入前に全員で共通事項を確認し徹底
懐中電灯を点灯し体に括る
戦術:
フリー時はカナンOR影男組を希望(バランス優先)
常に前衛/他との連携意識
戦闘開始に森羅呼吸法/以後必要時使用(龍顎拳連携も活用)
敵を自分に引きつけ防御優先/隙あらば龍顎拳
行灯破壊は避け、毒/追撃攻撃は武器でガード
子供の位置を把握/龍撃砲が子供に向いたら、発射の際に飛びつき軌道を逸らす
他者(子供含む)が標的になれば重傷覚悟で庇う
「砕いて殺させはしない」
……絆とは、護ること
カナンは角部屋から出さない
時間稼ぎ/囮目的で会話
「独りなら名は不要。なら何故、自らをカナンと名乗る?」
「人恋しい者ほど、裏切りを恐れ人を拒む」
魅了は縁深い者同士狙われる可能性を警戒、名を呼び注意喚起
自身に兆候あれば唇を強く噛み抵抗
共通事項◆子供保護
サポート流茶野はまず中央の部屋へ(角部屋配置時はフリーの者が迅速に交代)
隣接した者と流茶野で声を掛け合い現状把握・連携
戦闘時は子供の部屋を背にしないよう留意(特にカナン対角の部屋では注意)
安全確保と同時に流茶野に連絡、移動後そのまま護衛してもらう
(避難先はカナン対角最優先/次いでその両隣)
《サポートプレイング:流茶野》
共通事項・指示に従う
中央の部屋に移動、子供を宥めて終始護衛/不要な攻撃は控える
子供はリリス対角の位置に伏せさせ、流れ弾警戒
近隣と声を掛け合い連携
安全確保次第、極力リリスと離れた部屋(対角隣→対角)に移動
※背後より
前作のリプレイを読んでから、個人的に待ち望んでいた依頼であり、思い入れが強かった分、冷静に動けなかった部分が多く見られた依頼でもありました。
相談の進め方で反省すべき点も多く、参加者の皆様にご迷惑をおかけしたこと、申し訳なく思います。
最後に、サポートメンバーを含め、依頼をともにした皆様に心からの感謝を。
ありがとうございました。