空ちゃんと寅ちゃんに、ゴーストタウンに連れて行ってもらったよ。
僕はまだまだ足手まといだったけど、二人のおかげで助かっちゃった。
でも……。
ゴーストとの戦いが終わった後、空ちゃんが寅ちゃんを見て言った。
「……余裕じゃん。なんか、今まで出し惜しみしてたみたい」
空ちゃんが言うには、この一週間で、寅ちゃんは結構な勢いで強くなったらしい。
まだ覚醒したばかりで、力の使い方がよくわからなかったのが、実戦の中でコツを掴んで、すぐに自分のものにしていったんだって。
もちろん、空ちゃんにしたって悪気があって言ったことじゃない。
――でも。その一言に、なぜか寅ちゃんは酷く傷ついたような顔をした。
ほんの、一瞬の変化。だけど、僕も空ちゃんもはっきりと見た。
まるで鋭いナイフで胸を突かれたみたいに、寅ちゃんの表情が凍ったのを。
「出し惜しみか。――そうかも、しれんな」
そう、低い声で呟いて。
寅ちゃんは、その後すぐ、元に戻ったように思えた。
けれど。寅ちゃんが、さりげなく自分の顔の傷に触れたのを、僕は見逃さなかった。
ゴーストタウンから戻って、寅ちゃんと家の前で別れたあと、帰り道で空ちゃんと話をした。
寅ちゃんの顔の傷と、昔の寅ちゃんのことを。
寅ちゃんは、赤ちゃんだった頃に交通事故に遭って。
車に一緒に乗っていたお父さんとお母さんは亡くなって、寅ちゃん一人だけが奇跡的に助かった。
顔の傷はその時のものだって、僕は寅ちゃんのおじいちゃんから聞いたことがある。
子供の頃の寅ちゃんは、今よりもずっと静かな子だった。
特に嫌われてはいなかったし、寅ちゃんも人を遠ざけようとはしなかったけど。
小さい頃からずっと体を鍛え続けて、滅多に笑わない寅ちゃんは、どこかみんなから怖がられて、距離を置かれていた。
顔の傷は喧嘩でついたものだって誰かが言って、それをみんなも信じて。
寅ちゃんは、喧嘩で他の子を殴ったことなんて一度もなかったのに。
それでも、寅ちゃんは何も言わなかった。
ただ、そんな時。そっと、顔の傷を、撫でるように触っていることがあった。
たぶん、あれは寅ちゃんのクセなんだと思う。
寂しくても、そうと口に出せない時に。心がどこか痛いのを、紛らわせるための仕草。
空ちゃんは、話を聞いて「マズいこと言っちゃったかな……どうしよう」って俯いてた。
でも、僕はそれは大丈夫だと思ってる。
今の寅ちゃんは、昔よりもずっと楽しそうだ。
この学園に来て、空ちゃんに会って、暇ツブの結社に入って。
寅ちゃんは、昔よりずっと、笑うようになった。
――だから、きっと大丈夫。