その依頼を終えた日、俺は帰宅後もなかなか寝付けなかった。
原因は、思い起こすまでもない。
今までも、これと似たような任務をこなした後は、いつもこうだった。
慣れるものではないし、慣れるべきでないとも思う。
眠るのを早々に諦め、布団から起き上がる。
このまま、自室で塞いでいるのも気が進まない。
傍らで寝息を立てる桜を起こさぬよう、手早く身支度を整えると、俺は車の鍵を手に家を出た。
愛車のランサーを走らせながら、数刻前の記憶に想いを馳せる。
命を乞う懇願。それを拒絶した俺に向けられた、絶望の表情。
俺の背から伸びる蜘蛛の脚と、それが“彼女”を貫く感触。
無音に閉ざされた数瞬、虚空へと見開かれた眼――
自らが、一人の女性の命を絶った一部始終。
その悉くを、俺は鮮明に焼き付けていた。
――たとえ、その生が仮初のものであったとしても。
やがて、車は海岸へと辿り着いた。
一人で考え事をする時、最近の俺はいつもこの場所を選ぶ。
街の喧騒は届かず、凪いだ海は穏やかに、漆黒の威容を夜の闇へと横たわらせていた。
昔は不安を煽るばかりだった波の音も、今は俺の心を幾分か落ち着かせてくれる。
それは、俺にとって幾度も経験してきた任務だった。
リビングデッドと化した女性が、恋人の血を糧として偽りの生を永らえている。
彼女が理性を失い、彼を手にかける前に、討たねばならない。
いつか失われる命があると知っているから、それを阻止する。
救出対象が何を望んでいるかは、この際関係が無い。
倒すべきゴーストが、彼の最愛の人物であったとしても。
たとえ彼が、彼女に殺されることを心から望んだとしても。
俺たちが為すのは、一切を振り払ってゴーストを倒し、間接的に彼の命を救う。良くも悪くも、それだけだ。
何が本当に幸せであるかなど、本人達にしか分かりはしない。
人の命を守るため――そんな理屈では、彼らはきっと納得すまい。
だから、これは俺の意思だ。
大義ではない。間違っても、正義などでは有り得ない。
彼を殺させないために、彼の恋人を殺す。
勝手であるとは、彼女に指摘されるまでもなく、俺自身が知っている。
恨まれても良いと思った。
むしろ、恨んで欲しかった。
長くは続かないと分かっていながら、束の間の幸福を愛おしむ恋人達。
そこに土足で押し入り、望まぬ終止符を打とうというのだから。
――覚悟は決めていた。それなのに。
「俺は、まだ甘い……」
呟きが、さざ波とともに、海へと吸い込まれてゆく。
今回の任務。自らの選択にも、そして行動にも、殆ど後悔は無い。
再び時間があの時へ巻き戻ったとしても、俺はやはり同じことをしただろうから。
ただ一つ悔やむことがあるなら、それは最後の最後で、攻撃の手を一瞬だけ緩めたことだった。
あの時、彼女が言葉を発する前に、構わず止めを刺していたなら。
彼女の口から、残酷な真実を仲間に聞かせることも無かった。
それだけを、俺は悔やむ。
「――殺したのは、俺だ。彼じゃない……決して」
恨んでくれたら、良いと思う。
彼と彼女が、自らを責めずに済むのなら。
恋人の死から立ち直るまで、怒りが彼の生きる糧になるのなら。
どうか、手を下した俺こそを恨んで欲しい。
人の命と心。それぞれの重みを、痛いほどに感じながら。
ひたすら祈るように、俺は拳を握り締めていた。
《プレイング》
※齟齬あれば全体優先
※同行者2人称/姓呼捨て
心情
今の幸福が長く続かない事を、きっと彼らは知っている
2人にとって俺達こそが幸せを壊す死神だろう
正義や大義などという言葉で逃げはすまい
覚悟はとうに決めている
準備
全員の時計の時刻を合わせる
配置
カルミーン&サポートの安倍と南側ベランダ担当
神雀が隆を呼び出す時刻より前に起動し配置につく
物音や声を立てない
室内から見て死角に入るよう
極力壁に身を寄せ姿勢を窓より低く位置取る
2人にも同様に指示
移動中も窓に注意し気を抜かない
万一、多香子が窓から飛び出したら
進行方向を塞ぐよう割り込み大声で仲間に知らせる
ホイッスルの合図で突入
多香子の注意を引くよう派手にベランダの窓を破る
仲間と声を掛け合い多香子の位置を確認し接敵
戦闘/前衛
逃走防止と自分に攻撃を引き付けるため多香子に肉迫
威嚇のため蜘蛛の脚を眼前で開き生気吸収/以後惜しまず使う
常に攻撃し敵を休ませない
呪言や叫びは気を強く持ち抵抗/ガード狙い
通常攻撃は武器でいなし威力を少しでも抑える
仲間のダメージが大きい場合は間に割り込み狙いを逸らす
表情は鬼面で隠す
たとえ泣き叫び命乞いをしようと
人殺しと罵られようと
多香子が何を言っても攻撃の手は決して止めない
「――言いたい事はそれだけか」
今は痛みを感じる暇など無い
此処に居るのは鬼だ
事後
多香子の目を閉じてやり速やかに撤収
この戦いの真実は2つ
隆の命を繋ぎ、愛する者を奪った
どちらも俺は忘れない