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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

〔承前〕

夜が更けても未だ明かりの落ちぬ一室で、アコーディオンの音が響く。
寝た子を起こさぬようにと、音量に細心の注意を払って奏でるのは、はたる。
日中の野良モーラット捕獲依頼でも活躍した、小型の手風琴である。

その傍らでトランプに興じる彩晴、いちる、影郎、ユエ、モルモ。
それぞれの手元に、小分けにされた菓子類が積まれているのは、ゲームに賭けるチップの代わりだろうか。

一人、布団ですやすや寝息を立てている桜羅の隣で、勾音は眠るでもなく、アコーディオンの音色に耳を傾けながら、布団の上の桜に向けて猫じゃらしを器用に振っていた。

「――あれ、皆ここにいたんだ?」

襖を開いた円が、座敷をぐるり見渡して声を上げる。
首や肩をほぐすように回しつつ、影郎が欠伸交じりに言った。

「そろそろお開きにしますかねえ」
「一応、あっち布団だけ敷いてきたけど?」
「……あ、すんません。助かりますわ」

戦利品の菓子類を両手でひょいと掬った彩晴が、円の声に顔を上げる。
なお、お菓子争奪トランプ大会の一番の勝者が誰かは、言うまでもない。

「モルモ、畳の上で寝ちゃダメだってばー!」
赤いマントを毛布代わりに、早くも寝に入りかけているモルモを、ユエが抱える。
おやすみ、と互いに声をかけあった後、男性陣は自分達の部屋へと戻っていった。

「あら、起こしちゃった?」
桜羅がもぞもぞと布団から起き上がるのを見て、はたるはアコーディオンを弾く手を止めた。

「……ん、大丈夫なんだよぅー」
寝ぼけ眼をこすりつつ、部屋の女性陣を見渡し。
唐突に「ねーねー」と話題を切り出す。

「旅行の夜って、みんなでコイバナとかするのー?」

直後、全員が沈黙。
少し面子が違えば、たちまち盛り上がっていた話題なのかもしれないが。
きらきらと瞳を輝かせる桜羅に即答できる者は、生憎とこの中にはいなかった。

「……お、俺はそういうのないよ!?」
ぶんぶんと首を横に振ったユエが、矛先を自分から逸らそうと視線を向けるものの、向けられた相手も、全力で『パス!』の意思を表明していたり。

すったもんだの末、この場をどう収めたものかと数名が思い悩む間に、桜羅が再び寝付いてしまったため、突発コイバナ大会は不発に終った。

そのまま消灯となり、賑やかだった部屋にも闇と沈黙が下りた。
正直なところ、まだ眠くはないのだけれど――ひとりだけ起きているのも可笑しな話だからと、はたるは布団に身を横たえて窓の外を眺める。

――本当に……新潟の外では新しい経験ばかりね。

何もかも初めて尽くしだった旅行を振り返して、はたるは思う。
故郷の新潟を出て、銀誓館学園の生徒として鎌倉で暮らすようになった日々。
時には、辛い事もあるけれど。それでも、心躍る事の方が遥かに多いのだから……。


そして――壁を隔てた男部屋でも、縁側で空を見上げる少年が二人。
日中にちらついていた雪はすっかり止んで、澄んだ濃紺の空には星々が瞬いている。

少々冷え込んではいたが、少年達は上着を引っ掛けただけの姿で。
さして寒そうな素振りも見せず、そして互いに言葉を交わすことも殆どなく。
ただ、雪の残る庭や、天に輝く月や星たちを眺めていた。
淡い月の光に照らされ、いちるが願うのは大切な人達のことばかりで。

――やっぱり、俺の事は最後でいい。

ささやかな祈りが、冷えた夜の闇へと溶けていく。


座敷に戻ると、きちんと閉めたはずの襖が、ほんの僅か開いていた。
訝りながら襖に歩み寄ったいちるは、そのすぐ前に位置する寅靖の布団の上に、丸くなっている茶虎の猫に気付いて。隣にいる白黒の猫と2匹並んで、飼い主の胸の上で幸せそうに眠っている姿を見た。

襖を開け放した犯人の正体を見て、いちるは声を出さずに小さく笑い。
音を立てぬよう、そっと襖を閉めた。


大騒動に次ぐ大騒動だった温泉の旅も――これにて、閉幕。

〔完〕

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