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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/11/23 (Sat)

降り始めたと思った雪は、もうほとんど止んでいた。
薄暗くたちこめていた雲の隙間からも、今は晴れた空が見え隠れしている。
時間が時間なので、冷え込むのばかりはどうしようもないが――むしろ、火照った体には澄んだ空気が心地良いくらいで。

そんな夕暮れの空の下、一枚の地図を頼りに歩く5人の男女。
銀髪碧眼が印象的な少年――尭矧・彩晴がふと、空を見上げる。

「ん、雪止んだんね」
「見知らぬ土地で雪中行軍は勘弁ですからねえ」

トレードマークの真っ白なマフラーに顔を埋めて答える青年――流茶野・影郎。
そのやりとりを聞き、黒髪の少女――掛葉木・はたるが、藍の瞳を二人の方へと向けた。

「……流石に、この時期はそこまで降らないと思いますけど」
「それより急がないと。このままじゃ完全に日が暮れる」

地図を手に、どこか呑気な同行者達を促したのは掛葉木・いちる。はたるとは双子の姉弟であり、また彩晴は彼らの従弟にあたる。
いちるの顔に疲労が濃いのは、先にぬいぐるみ工場で行われた野良モーラット捕獲依頼での大騒動が原因だろうか。

「――あ、あそこじゃないかな?」

銀の髪に結んだ黒いリボンをなびかせ、前方を指差す少女、ユエ・レイン。
彼女の相棒であるモーラットヒーローのモルモは、今はイグニッションカードの中だ。

ユエが指し示した先は、鄙びた宿の看板。
そこに書かれていた名前は、確かに地図に目印をつけた温泉宿と同じで。
かくて、彼らは目的地へと辿り着いたのだった。
 

「――おや、皆様お揃いで」

チェックインのため、本館のロビーに足を踏み入れた5人の後ろから、不意に女性の声。
現れたのは、ハイネックのカットソーにかっちりとした黒のコートを纏った玖月・勾音と、あと3人。

「そちらも今着いたのか? 丁度良かったな」
駐車場に入れてきたらしいレンタカーの鍵を手に、口を開いたのは、渕埼・寅靖。
傍らにいた長身の女性――神凪・円が、影郎の姿を認めて軽く手を上げた。

「ルチャ太郎久し振り! うん、元気そうだな!」
「どこがですか、僕はもう疲れましたよ」

影郎もまた、日中の野良モラ捕獲大作戦の疲れが出ているらしい。もっとも、それは現地合流の3人――寅靖がレンタカーで駅まで迎えに行っていた――を除いた全員に言えることだが。程度の差はあれど。

「皆もよろしく! わいわい出来るといいな!」
ここに集ったのは、影郎といちるを除けば皆、先のナイトメアビースト襲撃の際に同じチームで動いたメンバーである。なので、まったくの初対面は居ないはずだが……こうやって一緒に遊ぶのは初めて、という面子も多い。
馴染みの薄い者同士が互いに挨拶を交わす中、くしゅん、と可愛らしいくしゃみが響いた。

「うー、寒いんだよぅー」

桜色の髪に、猫耳フード付きのマフラーを巻きつけた月森・桜羅が小さく身を震わせる。隣にいた寅靖が、屈むようにして桜羅の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か? 夕方になって冷え込んだからな……」
「ん、大丈夫なんだよぅー」

軽く鼻をすする桜羅を見て、はたるが口を開く。
「荷物を置いたら、早速温泉で暖まりましょうか。風邪をひくといけないものね」
その提案に反対する者は、一人としていなかった。


「わ、広ーい!」
「すごいんだよぅー」

女性達に割り当てられた座敷の襖を開け、ユエと桜羅が歓声をあげる。
ざっと室内を見渡し、鞄を置きながら勾音も微笑をこぼした。
「なかなか良い部屋ですね」

離れとなるこの建物も、本館と同様に歴史を感じさせるものの、隅々まで手入れが行き届いていており、居心地は悪くなさそうだ。
窓の障子を開けると、小さいが整えられた庭も見える。

「――あ、そうだ。ユエ」
はしゃぐ二人を微笑ましく眺めていた円が、ふと思い出したようにユエを呼び止める。

「配膳とか布団の上げ下ろしとかは出来るだけ自分達でやるって断ってきたみたいだから、宿の人の出入りは殆どないはずって寅靖が」
「え、本当? じゃあモルモも出てきて大丈夫かな」
「いざとなれば、ペットの振りで誤魔化せる範囲じゃないかしら」

ここは元々ペットOKの宿なのだし、というはたるの言葉を聞き、嬉しそうに頷いたユエが一枚のカードを取り出す。
イグニッション、の一声と同時に、赤いマントを羽織ったモーラットヒーロー・モルモが、彼女の隣にきゅぴっと現れた。

「みんなで温泉、なんだよぅー」

その桜羅の一言で、女性陣とモルモは早速温泉へ繰り出すことに。
廊下に出ると、隣の座敷からちょうど男性陣も出て来たところだった。

「おや、そちらもこれからですか」
「約一名、昼間に疲れ果てたのがおるもんで」

声をかける勾音に、彩晴が傍らの従兄を指して答える。
当のいちるを見れば、確かに温泉で少し癒された方が良いかもしれない、と思える様子で。事情を知らない者も、殊更にそれを訊こうとはしなかった。

「? 桜、どうした、行かないのか?」

寅靖の声に、何人かが彼の方を見る。足元にいるのは、寅靖が自宅から連れて来た2匹の飼い猫――茶トラのメス・桜(さくら)と白黒はちわれのオス・傘太(さんた)だ。
よく見ると、桜が飼い主の元を離れて女性陣の方へ歩み寄ろうとしている。

――ああ、うん。猫とはいえ女の子ですから。

と、飼い主以外のほぼ全員が、瞬時に桜の意図を理解した。
ほら、思春期の女の子が「パパと一緒にお風呂入るの嫌」っていうアレですよ、きっと。たぶん。

「よし、桜も一緒に行くか!」
円の声に嬉しそうにみゃあと鳴いて、はたるの腕に抱き上げられる桜。
置いてきぼりを食らった飼い主と残り1匹は、若干肩を落としていたという。

ともあれ、まずは温泉に行きましょうか。

〔続く〕
 

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