〔承前〕
何事もなく数日が過ぎた。
傷は殆ど塞がったものの、まだ万全ではない。
失血により消耗した体力が戻るまで、あと一晩は要するだろう。
大学は既に夏休みに入っており、道場も傷が治るまでは、という約束で、祖父が全てを引き受けてくれている。
取り立ててやる事もなく、また傷の痛みもないとなれば。
身体慣らしも兼ねて軽くゴーストタウンにでも行こうか……とも思うのだが。
友人達にこぞって止められたこともあり、自重しているのが実情だった。
これはこれで、時間を持て余す。
外を見れば、数日の雨が嘘のように青空が広がっている。
祐平から電話がかかってきたのは、そんな日の昼下がりだった。
「よっす、怪我の調子はどうさ」
電話口から、聞き慣れた軽快な口調が響く。
名乗らずとも、その声の主が百鬼祐平であるとすぐにわかった。
俺の親友であり、元は能力者として第一線で戦っていた男だ。
引退してからは医者を目指すと言い、暫くは大学に通う傍ら海外を飛び回っていたようだが、今は日本へ戻ってきている。
「おかげさまで順調だ」
簡潔に言葉を返した後、一拍置いて続ける。
「……ルルから聞いたのか」
短い沈黙。おそらくは、その通りなのだろう。
心配をかけたな、と答えると、祐平は至って軽い調子で気にするな、と言った。
「こっちも暇だったから、丁度良かったさね。
思ったより元気そうで安心したさ」
今度は、俺が沈黙する番だった。
ルルから事情を聞いたとするなら、もっと酷い状態を想像していたのかもしれない。
実際、帰還して直後は心身ともに屍同然であったのだが。
「今度、菓子持って遊びに行くさね」
「いつでも来てくれ。美味い茶を用意しておくよ」
さほど長くないやり取りの後、俺達はそう言って電話を切った。
これだけの会話に、何故か救われたように感じる。
己が未熟と無力を噛み締めた此度の戦い。
闇より浮かび上がった過去の記憶。
打ちのめされて、初めて見えてくるものもある。
何もかもを背負う強さは、今の俺には無い。
自分の器の大きさ以上に注ぎ込もうとすれば、それは必ず無理をきたす。
溢れ、零れたものは取り戻せない。
幾度と無く、そういう失敗を俺はしてきた。
過去は変えられず、どんなに苦くとも記憶を刻んで生きるしかない。
ならば、これから何をするべきか。
誰に赦しを請うわけにもいかない。
いずれ、俺が納得し、安堵するための手段に過ぎないのだろう。
同じ自己満足ならば、それは自分で探していくしか無いのだ。
厭われてもいい。
恨まれていてもいい。
俺として生き、俺として戦う。
答えは、きっとそこにしか無い。
悩み、惑う胸の裡はそのままでも。
少しずつ、自分のやるべき事が見えてきた気がした。
――これから、また鍛え直しになるな。
軽く、肩を鳴らした瞬間、部屋の隅で寝ていた桜が、咎めるように「みゃあ」と鳴く。
おそらくは、このまま身体を動かしに行くとでも思われたのだろう。
全快するまでくれぐれも安静に、という友人たちの見舞いの言葉も思い出し、軽く苦笑する。
今までが今までだから仕方が無いが、それにしても信用がないものだ。
「大丈夫だよ。まだ今日一日はゆっくり休むさ」
微妙に目つきの悪い桜の頭を、軽く撫でてやる。
明日になれば、また元通りに動けるだろう。
珍しく意図的に、そっと左頬の傷に触れる。
今は、痛みも熱さも感じない。
あの事故からずっと、内側から俺を苛み続けた炎。
それは様々な痛みと混ざり合い、まだ消えずに俺の中にある。
答えを見つけ出すまでずっと、この炎は自らを焼くのだろう。
それでもいい。
この、因果の炎だけではなく。
温もりをもたらす炎もまた、俺の前にある筈だ。
闇の中、標の如く浮かぶ灯火のように。
※文中に名前を出させて頂いた方々には許可を頂いております。
この場を借りて深く感謝を。
《プレイング》
※齟齬は全体優先
※2人称/文中参照
心情
神話のキマイラは魔神の娘だが
此度のそれはゴーストだ
英雄ならぬ身でも倒すのみ
俺は蜘蛛の脚を持つ虎
姿は違えど一種の“キマイラ”だ
異形同士の共喰いといこう
隊列/配置
[前衛]
キマイラ班:中央・残留思念付近
鹿島/守衛/天泉/俺
地縛霊班:残留思念の崖側20M程
狩夜/劉/ルル
[後衛]
キマイラ班-左前方、地縛霊班-右前方となる茂み側
全員が前衛双方の20M以内となるよう位置調整
攻撃:揚羽/フォレストキャット/渡辺/榊原
回復:ヴィスピャンスカ/サポート4名
戦闘:前衛/キマイラ班
事前に起動
陣形が整ったのを全員に確認後、思念に詠唱銀
「皆、覚悟はいいか」
キマイラは鹿島と分担し1体ずつ抑える
連携重視
声をかけ合い味方からの指示にも従う
可能なら、出現直後に先手を打ち生気吸収
自らへ攻撃を引き付け防御を固め移動を妨害
キマイラを中央に留める事優先
敵を見て大技の予備動作に気をつける
突進は重心を落とし両腕でガード
吹き飛ばされたら回復を受け速やかに復帰
後衛の回復範囲から出ないよう徹底
火炎対策に極力1列に並ばない
隙あらば生気吸収で攻撃
封術時は気魄と神秘の通常攻撃で有効な方を
虎紋覚醒は地縛霊(判別可能ならB)全滅まで使わない
地縛霊班が合流後、周囲にフォローを頼み数歩下がり使用
再度接敵、連携で生気吸収へ繋げる
以後同様に必要時使用(連携含む)
エンチャント時は尻尾にも注意
武器で弾き直撃防止
眼前の敵が倒れたらもう一方のフォローに入り攻撃