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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2017/07/28 (Fri)

エイプリルフールの仮想設定における連作SSです。
 詳細は
こちら

〔承前〕

【Who killed her? ―誰が彼女を殺したか?】

いつか、星海の畔に辿り着けたとしたら。
過去のどの瞬間に赴き、何をどのように改変するかは、大分前から決めていた。
俺と彼女の足跡を辿り、彼女の死に関わった要素をくまなく調べ。
悩みに悩み抜いて、自分のなすべき事を決めた。

自分勝手な選択だと、我ながら思う。
こんな事で、果たして彼女は幸せな生を取り戻せるのか。
俺が殺めた数多の命と、見捨てた我が子に対して、本当に責任を果たせるのか。
そして、ユエは――。

一番肝心なそのことを、俺はユエに言えなかった。
全てを知れば、この相棒は決して俺を舟に乗せなかっただろうから。

俺が選んだのは、ユエにとっても残酷な道であるはずだから。

一歩足を進めるたび、周囲の風景がめまぐるしく明滅し、次第に色を取り戻していく。

気付いた時、俺は車の運転席に座っていた。隣の助手席に、ユエもいる。
カーナビの日付を見ると、確かに“あの日”だった。
俺がプロポーズして、彼女がそれを受け入れた日――。

車内を探り、目的の小さな包みを見つける。
彼女に贈るために、苦心して選んだ指輪だった。
目的を悟られないよう、彼女の指のサイズを知るまでが大変だったなと、懐かしく思う。
包みを手に取り、懐へと仕舞った。

「――行こうか、ユエ」

ユエが頷くと同時に、車を発進させる。
過去において、彼女のマンションまで直行したはずの車は、本来のルートを大きく外れて別の方角へと向かった。

悲劇の始まりの場所、俺の決着の場所へ――。



そこは、“この日”の一年ほど前に閉鎖された廃工場だった。
彼女の死後に知った事だが、随分と曰くつきの場所であったらしい。
劣悪な労働条件のもとで悲惨な事件や事故が立て続けに起き、その多くは経営者側の工作で闇に葬られてきた。

巧妙に隠されてきた数々の悲劇が白日の下に晒された直後、工場は閉鎖。
跡地は売りに出されるはずだったが、工場の取り壊し作業において怪異が頻発し、同時に諸悪の元凶であったとされる役員が急死したこともあり、死者の祟りだと騒がれて以後、そのまま放置されていたのだ。

死者たちの強い思念に、詠唱銀を含む銀の雨が降り注いだ時。
彼らは、生者に仇なす“ゴースト”に成り果てる。
そのことを正しく認識しているのは、俺のような“能力者”を除けばごく一部に過ぎない。――今は、まだ。

全ての怪異を拒絶する“世界結界”は、ゴーストによって引き起こされた事件を、“常識で考えられる現象”として捻じ曲げてしまう。
だから、通常はゴースト事件は大きく報道される事はない。
怪異を目の当たりにし、“常識”を疑う者が増えては“世界結界”がますます綻ぶからだ。

それが、俺が“能力者”として目覚めた当時の認識であったのだが――。

どうやら、考えていたよりもずっと“世界結界”のダメージは深刻であったらしい。
辛うじて“常識的な現実”を保っているという、危うい状態であったのだ。
でなければ、あんな惨事は起こりようがなかった。

それに――“世界結界”が完全に機能していれば、“星海の畔”は荒唐無稽の伝説のままであっただろう。
強く望めば現実ならぬ領域まで辿り着ける、その事が、境界が曖昧になりつつある証かもしれなかった。


車を路肩に停め、ユエを伴って廃工場の前に立つ。
外から見ても、その禍々しい気配は隠しようがない。
歪められた怨念が、腐臭となって奥から漂ってくるようだった。

近くを通り抜けていく車の音だけが、この風景に現実味を添えている。
こんな場所にも拘らず、すぐ傍には大きな道路があり、交通量もそれなりに多い。
彼女が利用していた路線バスも、ここを通っていた。

もっと早く気付いていれば、この路線の利用を止めるよう彼女に説いただろう。
だが、とうとう彼女が死ぬまで、俺はその危険を知ることはなかったのだ。

死者の怨みと嘆きを糧に、残留思念は静かに力を蓄えていった。
貪欲に成長を続け、限界まで膨れ上がり――ついに、爆ぜて消滅したのだ。
強大なゴーストと化すはずだった残留思念は、空気を入れすぎた風船が割れるように、自ら取り込んだ力に耐え切れず自壊したのだった。

何より不幸だったのは、その破滅が昼間、交通量の多い時間帯に訪れてしまったことだ。
爆発のエネルギーは、廃工場のみを砕くに留まらず、周辺の道路まで一瞬にして飲み込んだ。

直撃を受けた路線バスは対向車線まで吹っ飛んで横転、そこに車が次々と突っ込み、ひしゃげた車体は血と炎の棺と化した。
バスの乗員乗客は彼女を含め全員が死亡。生存者は一人もなかった。
彼女の胎内に居た俺達の子は、死者の数にすら加えられなかった――。



瞑っていた目を、そっと開く。
追憶の時間は終わりだ。“今”ならば、まだ間に合う。

彼女の命が奪われる前に、あの怨念の塊を消し去るのだ。
そのために、ただ、それだけのために。
俺は全てを投げ打ち、この手を血に染めてきたのだ。



工場内に足を踏み入れ、悪意の源たる思念を探す。
見つけ出すのは、そう難しいことではなかった。

「――心の準備はいいか、ユエ」

それは、自分自身へ向けた問いであったかもしれない。
ユエが大きく頷いた後、俺の背後側、20メートル射程ギリギリの位置につくよう指示を出す。
いつもの配置と違う事に相棒は怪訝な顔をしたが、今回はこれでいい、と念を押すと、首を傾げながらも従った。

「実体化まで少し時間がかかるかもしれない、一瞬たりと気を抜くな」

振り向かずに言った後、少量の詠唱銀を残留思念の塊へと投じる。
詠唱銀を触媒として、残留思念をゴースト化させるためだった。

そう遠くない未来に自爆してしまうほどの思念だ。
このタイミングで詠唱銀を加えれば、確実にゴーストと化すはず。
俺の読みは的中した。

残留思念が激しく渦を巻き、その中心で闇が蠢く。
それは次第に形を成し、グロテスクなゴーストの輪郭をくっきりと浮かび上がらせた。

――じゃらり、と金属の擦れる音。

薄汚れた床から根を生やすように、一本の鎖が伸びていた。
ゴーストを、因縁の場所に縛りつけるための鎖。

その鎖の先に、腐った肉の塊が繋がれていた。
断末魔の痙攣を繰り返す足。
救いを求めるように伸ばされたままの腕。
怨みの表情を浮かべ、空っぽの眼窩から黒い涙を流し続ける顔。
それらを強引に纏めてこね上げ、醜悪なオブジェに作り変えたような。

肉の隙間から這い出す細い蔓が、腐り果てた手足を締め付ける。
死者達の顔は苦痛に歪み、幾つもの呻き声が廃工場内に満ちていた。

「――ユエ、援護を頼む」

体内に眠る“気”を一気に解き放ち、己の力を高める。
髪が微かに逆立って波打ち、全身に紅の縞紋様が浮かぶ。
“人虎”の二つ名の通り、虎の姿と力をその身に宿したのだ。

数歩の距離を詰め、ゴーストに肉迫する。
顔の一つが、地の底から響くような怨嗟の声を上げた。

ひたすら死者の肉を苛んでいた蔓が、敵の存在を認めてざわめく。
次の瞬間、それは一斉に牙を向き、俺に襲い掛かった。

〔続く〕
 

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