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(株)トミーウォーカーのPlay By Web『SilverRain』『無限のファンタジア』のキャラクター達の共用ブログ。
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2024/04/25 (Thu)

【※背後より】
 『寅靖の祖先が土蜘蛛である』という仮想設定のもとで
 忘却期以前の渕埼家の始祖を書いた連作SSです。
 (事実とは限りませんし、表でこの設定を用いる事もありません)
 これでもかという程に自己満足全開です、予めご了承下さい。



昔、祖父がこんな話をした事がある。

――知っておるか寅靖。儂らの祖先には鬼が居たそうだぞ。

鬼とは節分に出てくるあの鬼か、と問うと、祖父はわからぬ、と首を横に振った。
ただ、人を食らう異形の存在であったと伝えられているそうだ。
普段の姿形は人と変わらぬが、業火を自在に操り、背からは何本もの腕を生やして人の精を貪ったのだという。

最初に聞いた時は、単なる与太話としか思えなかった。
ただ、今になってこの話を思い出した際、一つだけ引っかかった事がある。
人食いの異形とは、来訪者・土蜘蛛のことではないかと――。

男は、群れでは少しは名の通った戦士だった。
その性、勇猛にして戦を好み、また天賦の才もあった。
武を重んじる群れの中で己の立場を強めてきた男は、しかし唐突に群れを離れた。
戦で失策をおかして追放されたのではない。自ら出奔したのだ。

大した理由ではない。
群れに生き、一族の女王のために戦う事に興味を失った。ただ、それだけ。
だが、男にとっては何よりも重要だった。
興味の持てぬ事を続けていくなど、人生の浪費に過ぎぬ。
面白くなくては、生きている価値がないではないか。

群れを構成するには、些か奔放すぎた性質だったようである。
成人するまで群れへ留まっていた事こそ奇跡であろう。

かくて、男は群れを出た。
行く当てなど、あるはずもない。
風の向くままに歩き、退屈凌ぎに獲物を狩った。
獲物はある時は死霊であり、ある時は獣であり、ある時は人であった。

何であろうと変わらぬ。立ち塞がるなら断ち割るまで。
肉厚な刃の、宝剣と呼ぶにはあまりに武骨な黒い短刀。
対になったその二振りを二刀流で扱う男の前に敵はなく、その度に男は退屈を募らせた。

人生に倦んでいる。
まだ若い男にそう思わせるほどに、深刻な渇きだった。

男が女に出会ったのは、そんな折のこと。
水を求めて歩いていた男は、深い森を抜けた先で奇妙な家を見つけた。
外観が奇妙なのではない。建っている場所が奇妙なのだ。

男がにらんだ通り、ここは水源のすぐ近くではあった。
ただ、川に下りていって水を飲むことは、どうやら出来そうにない。
崖のように切り立った岩の下を覗いてみれば、禍々しい気配に満ちた淵が暗く淀んだ水の色を見せていた。
身投げを願う者にとってこれ以上の場所はあるまいと、自害など決して選ばぬであろう男ですら思った。

話を戻す。
奇妙であったのは、その家がそんな場所のすぐ傍に建っていたからだ。
まともな神経の人間ならば、まず家を建てようなどとは思うまい。

妖(あやかし)の類か。
でなければ、何かの事情で世を儚んだ者の隠居先か。

――面白い。

俄然、興味をかきたてられた男は、水探しを中断して家へと向かう。
何者かが住んでいるならば水くらい蓄えてあるだろうし、そうでなくとも、あと一日くらいは水が無くとも困りはしない。
期待外れであったら、殺して元来た道を戻るだけのこと。
かくて、男は家の扉を開けた。

男がそこに見たのは、一人の女。まだ若い。
長い黒髪、焦茶の瞳。姿形は整っている方なのだろうが、どこか曖昧にぼやけた印象で、器量良しと言い切るには首を傾げざるを得ない。

それよりも、男が惹き付けられたのは女の持つ雰囲気だった。
動かぬ獣のように――鋭くありながら穏やかで、殺気はまるで感じない。
生きている気配すら、希薄のようにも思える。
屏風に描いた虎のような女だ。男は、心中で女をそう形容した。

「閉めていただけませぬか」

女が、不意に口を開く。やはり、どこか現実感に欠ける声だ。
扉を開け放したままであることに漸く思い至り、男は言われるままに扉を閉める。
これで良いかと男が言葉を返すと、女はゆるりと笑った。

〔続く〕

【♪風の旅/姫神】 [YouTube]

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